虚
〜　シュナイゼル　〜

　大量の書類の決済を済ませて、シュナイゼルは一息ついた。副官のカノンが見計らったように声をかける。
「一休みされたらいかがですか、閣下？　ナナリー様からいただいた新鮮なフルーツがありますけど」
「ほう、ナナリーから。それは、いただかなくてはいけないね」
「では、今用意させますわ」



　内線電話で連絡を入れているカノンの声を聞きながら、シュナイゼルは背もたれに身体を預けて窓の外を見た。冬晴れの澄んだ空だった。
「折角だ、カノン、ナナリーも呼ぼう。この時間はあの子もちょうど休憩の頃合だろう」
　何よりも公務を優先させるシュナイゼルに限って妹を気遣う配慮などある筈もなく、精々がただの気まぐれだと長く彼に仕えているカノンは分かっていた。シュナイゼルほど血縁よりも秩序に重きを置く貴族は見た事はなかった。カノンは肩を竦めた。
「残念でしたわ。ナナリー様は今日はお出かけされています」
「ほう、私用でかい？　ナナリーが外出とは珍しいね」
　シュナイゼルはそれから何かを考え込むように、顎に手を当てた。
「ああ、そうか。今日は…」
　途切れた言葉に、カノンは首を傾げた。
「今日は、なんですか？」
「あれの誕生日だったな、確か」
　シュナイゼルは一人納得するように頷いた。
「そうすると、スザク君も一緒かな」
「ご一緒かどうかは分かりませんが、ゼロも今日は私用でいないそうです」
「ならば、一緒にいるのだろう。可愛いものだ」
　フフと笑うシュナイゼルに、カノンが向き直る。
「閣下、少しお聞きしてもよろしいでしょうか？」
「どうかしたのかな、カノン？　怖い顔をして」
「閣下は、ギアスのことをどれだけご存知なのですか？」
「随分と遠回しの言い方だね。君らしくもない」
　沈黙が落ちて、シュナイゼルとカノンは視線を戦わせる。
　シュナイゼルは肩を揺らして笑った。
「君が聞きたいのは、私にかけられたギアスをどれだけ私が把握しているか、だろう？」
「ええ。そうですわ。閣下は何でもお見通しですわね」
「私にかけられたギアスか。そうだな、ルルーシュのことだ、恐らく、ゼロに仕えろか、そんなところかな」
「覚えているのですか？」
「いや、記憶はないよ。私はルルーシュが私を殺すと思っていたからね。彼の思考を読み誤っていたよ。私を殺さなかったというなら、それは私に利用価値があるということ。今現在生きていることを考え合わせれば、見せしめとして殺すために生かしておいたわけでない。なら、答えは一つだろう。スザク君、記号としてのゼロの配下に入れ、だろうな。確かに、スザク君とナナリー、黒の騎士団の彼らでは政治面では少々不安だからね。実に絶妙な配置だよ。さすがはルルーシュだ」
　自分に関わる事すら他人事のようにシュナイゼルは分析してみせた。
「仰る通り、あなたがかけられたギアスは『ゼロに従え』です。あなたは今のゼロを枢木スザクと認識している。ギアスの力は発揮されているようには思えない。なのに、あなたはどうして彼に従っているのですか？」
　カノンはずっと気になっていた疑問をぶつけた。
「それがルルーシュ様の意志だからですか」
　シュナイゼルの薄い笑みを貼り付けた顔からは、どんな感情も読み取れない。
「あなたはご自分の命にすら執着しなかった。今思えば、あなたが執着していたのはルルーシュ様との勝負だけだった気がします」
　副官のカノンでさえ、当時のシュナイゼルが何を考えているか分からなかった。
「シャルル皇帝が行方不明になった時、正当な理由を得る必要性やダモクレスの建造を待っていたとはいえ、あなたは全く動かなかった。いくらでもやりようはあったのに。あなたが待っていたのは、ダモクレスではなくルルーシュ様だった。ただルルーシュ様が動くのを待っていた。結果的にルルーシュ様と枢木スザクが登場する事により、前皇帝陛下を暗殺し、皇位を簒奪した者を倒すという正当な理由と図式を、貴方は手に入れる事に成功された。でも、本当はそれはただの結果に過ぎない。あなたの目的はルルーシュ様との勝負そのものだった。違いまして？」
　シュナイゼルはただ口元に装飾のような笑みをたたえている。
　今更その問いに答える気はないのかもしれない。カノンが諦めようとした時、シュナイゼルは口を開いた。
「残念ながら、私はそこまで暇ではないよ。でも、そうだね、確かにルルーシュとのゲームは思いの外面白かったよ」
　くすりとシュナイゼルは笑った。
「皆の願いではなく、あの子のように自分がこうしたいという野心が私にもあれば、世界はもっと違った色に見えたのだろうか。もっと未来に期待する事ができたのだろうか」
「閣下？」
　涼やかに笑みながら、シュナイゼルは腹心の部下に問いかける。
「カノン、勝敗の価値をどう思う？」
「価値、ですか」
「そうだ。私は一度だって、あの子に負けた事はない。が、ダモクレス内部で私は負けた」
「でも、ルルーシュ様が勝ったのは一度きりです」
「その一度の勝利で、彼は今までの負けを全て覆した」
　シュナイゼルはにっこりと微笑んだ。
「私に勝つという事は、そんなに安いものではないのだよ」
「それは、勿論分かっております」
「いいや、分かっていないよ。分かっていれば、何故私がスザク君に従っているかなんて愚かな質問はしないだろう」
「･･････」
「私にもプライドはある。勝者に対する敬意は持っているつもりだよ」
「それが貴方が枢木スザクに協力する理由ですか」
「勘違いはしないで欲しい。私は、あくまでルルーシュに従っているだけだよ。私に勝った唯一の人間に。私との勝負に命がけで勝ってまで、彼が望んだ世界がどんなものか、それは私にも興味がある。ただそれだけの事だよ」



　扉がノックされ、会話は中断される。カノンの入室許可の返事を受けて扉から入ってきたのは、中年女性の使用人だった。彼女の持つトレイの上には、ガラスの器が乗っていた。
「お待たせしました」
「ありがとう。そこに置いといて」
「かしこまりました」
　ガラスの器をテーブルに置いて、使用人が一礼して下がっていく。
「閣下、ナナリー様からの頂き物です。どうぞ、お召し上がりください」
「そうだね、ではいただくとしよう」
　シュナイゼルが休憩するために立ち上がる。
　テーブルの上に置かれたガラスの器には、食べやすくカットされた瑞々しいオレンジが綺麗に盛られていた。

（2009/04/12）

会話ばっかりの書き逃げといういか、オチなし。
単に、シュナイゼルの行動原理の根本にルルーシュがいてくれるといいなーというだけの、ただのオールハイルルルーシュ話です。
そして、あんまり公式設定とか小説を読み込んでいないんで、色々間違っていたら、ごめんなさい〜。それ以前に、季節感もへったくれもない。

お粗末さまでしたｖ 窓を閉じて下さい お粗末さまでしたｖ

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