捧
〜　ジェレミア　〜

　ジェレミアは玉座の前に跪いて、深々と頭を垂れた。静かな王の声が耳に心地よく降りてくる。
「ジェレミア、どうだ？」
「はい、全ての準備は整ってございます。パレード当日には、コーネリア殿下も反皇帝派を率いて決起されるようです」
「そうか。流石、姉上だ。抜け目ない。だが、想定の範囲内だ。くれぐれも」
「承知しております。無駄な血は流しません」
「うん。頼んだぞ」
　ルルーシュの宝石のような双眸がジェレミアを映した。
「卿はこれからどうするつもりだ？　私の騎士になった以上、今後表舞台に立つ事は叶わないだろう」
「ブリタニアの農村地方にいくばくかの土地があります。ゴッドバルトとは無縁の私個人の土地です。剣を捨て、そこでオレンジや他の作物を作って、余生を過ごします」
「すまない」
　残りの人生を余生と呼ぶには彼は若い。とはいえ、身体の半分を改造され、彼の寿命が長いか短いかは誰にも分からない。Ｃ．Ｃ．に確認したが、やはり彼女にも分からないという。
　命の期限を差し引いても、ジェレミアの腕をもってすれば、どこの国軍でも重用されるだろう。しかし、それはルルーシュ達の目指す優しい世界には不要のものだ。
　ジェレミアは主君の意志に従い、ルルーシュが去った後、剣を捨てる覚悟だった。
　ルルーシュは目を伏せた。
「卿には何も報いてやれない」
「何を仰いますか。我が忠義果たす機会をいただき、望外の喜びにございます。主君を得て、忠義を尽くしてこそ騎士。騎士としての本懐を遂げる機会を与えていただき、このジェレミア、果報者にございます」
「すまない。いや、ありがとう」
「勿体ないお言葉です」
　忠義の騎士は、ただ一人の王に深々と頭を下げた。
　沈黙が降りてくる。ルルーシュはもう少しジェレミアと話していたかった。しかし、何を話していいか分からなかった。ジェレミアは若い主君の様子に小さく口元を綻ばせた。
「陛下、最初はうまくいかないでしょうが、満足できるオレンジができましたら、ナナリー様にお送りします」
「うん、そうしてやってくれ。ああ、それから」
　言いにくそうに口ごもった主君の意を得て、ジェレミアはやわらかく笑んで頷いた。
「分かっております。枢木、いえゼロにも私のオレンジを送りましょう」
「うん、頼む。卿のオレンジ、期待してる」
　ルルーシュは嬉しそうな顔を見せた。主君の喜びは、臣下の喜び。ジェレミアも嬉しく思う。そして、恐らく主とゆっくりと話す事の出来る最後の機会に、ジェレミアは常々考えていた事を口にした。
「陛下、一つだけお願いがあります」
　その言葉に、ルルーシュが少しだけ瞳を見開いた。
「卿が願い事？　珍しいな。何だ、言ってみろ」
「は。恐れながら、申し上げます。このジェレミア・ゴッドバルト、終生陛下の騎士としてお仕えしたく思います」
　ルルーシュの秀麗な顔が曇った。
「ジェレミア、卿はここまで私についてきてくれた。それでもう充分だ。ゼロレクイエム後は自由に生きろ」
「陛下、ご存知の通り、私は不器用な人間です。主君に従うは、臣下の役目でございます。陛下の今のお言葉に逆らうようで心苦しいですが、陛下が信念を貫かれるように、私も信念を貫きとうございます」
　ジェレミアが真っ直ぐに主君を見上げた。
「どうか我が願い、お聞き届け下さい、陛下」
「ジェレミア」
　ルルーシュの願いは、人々に明日を残す事だ。ルルーシュの一言で、ジェレミアが生きる明日が決まる。彼の願いは、およそ現実的ではない。悪逆皇帝に終生の忠義を捧げる人生など、他人から見れば、およそ幸福とは思えない。
　一度だけ瞑目して、ルルーシュは再びジェレミアを見た。
「分かった。卿の願い、聞き届けよう」
「ありがとうございます」
　ブリタニア最後の皇帝は静かに玉座から立ち上がり、控えている忠義の騎士に厳かに最後の命令を与えた。

「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの名に置いて、命じる。ジェレミア・ゴッドバルト、卿は今後二君に仕えること許さず。卿が仕えるのは未来永劫に渡り、我ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアただ一人であると心得よ。卿が従うべきは、我の言葉と己の心のみと知れ」
「イエス、ユア・マジェスティ」

　余人のいない静謐なる玉座の間に響く王の声と永遠の誓約に、応じる忠義の騎士の声は歓喜に打ち震えていた。　

（2009/05/10）

相変わらずオチのない、オールハイルルルーシュ話。
スザクとルルーシュの騎士皇子も大好きだけど、ジェレミアとルルーシュの恋愛の全くない、純粋な主従も大好物です。

お粗末さまでしたｖ 窓を閉じて下さい お粗末さまでしたｖ

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