コナン「快新+昴さん」

2011年5月4日　祝ｽﾊﾟｺﾐﾌﾟﾁｵﾝﾘｰ無料配布ペーパー

　快斗は足取りも軽く、工藤邸に向かっていた。事前に、盗聴という名の調査を行い、今日は新一が家にいる日であることは把握済みだった。盗聴は警視庁にて行った。自宅を盗聴してバレたら、新一は烈火の如く起こるだろう。新一を怒らせるというリスクを考えると、涙を飲んで自宅盗聴はこらえている。
　快斗は学生的にも怪盗的にも予定を調整して、ゴールデンウィークの日程を空けた。事前調査の結果、新一も今のところ抱えている事件はない筈だ。友人知人からの誘いもない。これで警視庁からの緊急呼び出しがない限り、新一の予定は空欄である。
　事前に、新一には快斗が遊びに行く旨のメールを送ってある。勿論、返事はなかったが。ほんの少し寂しくはあるが、それはいつものことなので気にしない。気にしないようにしている。でなければ、工藤新一と付き合うことなど出来はしない。
　様々な経過を経て、今は新一のそばにあの健気で優しい幼なじみの少女はいない。両親も海外にいて帰国していないことは、確認済みだ。だから、自分の事に対して無頓着を極める新一は、今日が自分の誕生日であることには、きっとまだ気づいていないだろう。
　だから、今日は快斗が新一の誕生日を盛大に祝ってやるのだ。
　新一の反対がなければ外に遊びに出て、帰りに食事でもしよう。家にいたいと言うならば、快斗が腕をふるって料理を作ろう。
　快斗が新一に「ハッピーバースディ、名探偵！」と告げれば、きっと照れ隠しにふて腐れるか、はにかみながら喜んでくれるだろう。どちらでも、新一の普段と違う表情が見られるなら、快斗は満足だ。
　快斗はうきうきと工藤邸に辿り着いた。
　チャイムを鳴らしたが、返事はない。鍵はかかっている。快斗が行く時間もメールには書いておいて、それに対してダメの返事はなかったから、新一的には了解の筈である。恐らく、寝ているか、忘れているか。メールを読んでいないという可能性は考えないようにした。
　ほんの少し哀愁を感じながら、快斗は前に渡してもらった合い鍵で玄関を開けた。勿論、怪盗キッドをしている快斗なら鍵なんてなくても玄関を余裕で開けられるが、新一はちゃんと鍵を渡してくれた。
「オレは、怪盗キッドと付き合っているんじゃなくて、黒羽快斗と付き合っているんだ」
　横を向いてそう言って、新一から素っ気なく鍵は渡された。しかし、耳まで真っ赤になっているのは隠しようがなかった。
　新一の可愛い仕草を思い出して上がったテンションは、玄関に入って一気に下がった。目に飛び込んできたのは、新一のものではない男物の革靴だった。
「あれ、お客さん？　依頼人かな？　連休なのに珍しいな」
　新一が一人じゃない事と暇ではなさそうな事実に、少しがっかりしたものの気を取り直す。まずは来訪を伝えようと、快斗は人の気配がするリビングに向かった。廊下を進むと、話し声が聞こえてきた。新一と落ち着いた男の声だった。

「あっ」
「どうしたのかな？」
「あ、いえ、何でも、ないです」
「なら、こっちはどうかな」
「あ、そこは･･･」
「ダメ、かな？」
「･･･い、いえ、ダメ、じゃないです」
「意地っ張りだね」
「そんなんじゃ･･･」
「じゃあ、これならどうかな」
「っ、や、ちょっと待って」
「残念ながら、待てないな」
「あっ」
「可愛い声だね、新一君」

　何、なんなの、この会話！
　新一の声は明らかに恥じらっている。対する相手の声は大人の余裕に溢れている。
　リビングのソファで、新一と誰かがナニをしているのか!?
「新一！」
　ソファに押し倒され、男にいいように弄ばれている新一という、あらぬ妄想が脳内を駆けめぐり、快斗はぶち壊す勢いでリビングの扉を開いた。
「よう、快斗、どうしたんだ、そんな慌てて」
　新一がきょとんと不思議そうに、リビングに入ってきた快斗を見ている。
　直前までの快斗の妄想と違って、新一はちゃんと服を着ている。リビングのソファに座り、テーブルを挟んで向かい側に眼鏡の男が座っていた。テーブルの上には、チェス盤が広げられていた。
「えっと、ナニしているの、かな？」
「見て分かるだろ、チェスだよ」
　確かに、見れば分かるけど、聞いているだけだと分からなかったよ！
　快斗の心の声など、当然気づかずに新一はチェス盤を指し示した。
「見ろよ、快斗！　昴さんがオレの誕生日プレゼントに、右○さん御用達のガラス製のチェスセットをくれたんだぜ！　すげーだろ。それで、早速昴さんとゲームしていたんだ！」
　新一が喜々として説明してくれる。
　あー、先越されたんだーと敗北感に打ちのめされながら、快斗は質問をした。
「えっと、お二人のご関係は？」
　何か、分かり合っている気配がする。表面上の知人よりも、新一はもっと親しみをもって接している。さっきの会話だって、少し新一が甘えているように聞こえた。さらに、新一には珍しい名前呼びをして、相手も新一君と名前で呼んでいる。
　二人の関係を問われて、新一は昴と呼んだ男と顔を見合わせてから、快斗に向き直った。
「元大家と、」
「元店子ですよ、黒羽君」
　阿吽の呼吸にジェラシーを感じてしまう。新一が小首を傾げた。
「あれ、お前、昴さん知らなかったっけ？」
「知らない。聞いてない」
「そうか、じゃあ紹介するな。こちらは沖矢昴さん。前にオレが事件で家を空けていた頃、ちょうど住んでいたアパートが火事になって行く所がなかった昴さんに部屋を貸したんだ」
「あの時は、本当に助かったよ、新一君」
「オレも、人が住んでいないと家が傷むから、住んでもらってよかったですよ」
　二人の間に、大家と店子以外の、もっと違う空気を感じてしまうのは、快斗の嫉妬心の所為か。
「昴さん、こいつは」
「彼が噂の黒羽君だね」
「ええ、そうです」
「新一、噂って何？」
「いや、新一君からよく君の話を聞かされてね。すごいマジシャンなんだって」
　昴は穏やかに笑っている。しかし、上から目線に感じてしまう。快斗の事をよく知っていると、新一との親密度をアピールされている気分だ。
　快斗は二人にずかずかと近づいて、新一の隣に座るとその首に腕を回して自分へ引き寄せると、昴をきっと睨んだ。
「新一はオレんだ！」
「ちょ、バ快斗！　いきなり何を言ってやがる！」
　突然の宣言に慌てて真っ赤になりながら、首にしがみついている快斗を新一は引きはがそうとする。勿論、快斗は離されまいとますます強く新一に抱きついた。
「ああ、本当に君達は仲良しさんだね」
　昴はにこにこと楽しそうに目の前で繰り広げられる攻防戦に微笑みながら、コーヒーカップを傾けた。気分は、じゃれ合う子猫達を見守る大型犬に違いない。
　結局、その日一日、首から黒羽快斗をぶら下げている工藤新一を見る事ができたという。
　終　

(2011.05.04)

　というわけで、一応こんなんでも、工藤さん誕生日おめでとうペーパーでした！　本当に、これっぽっちもお祝いしてないけどね！
　昴×新一の神イラストを拝見して、おおー、すば新いいなーと思った４月の頃。正体が出ていない今だからこそまだ好き放題できるというわけで、今回のお題は昴さん。昴さん初書きだけど、結構書きやすかったです。
　当初、昴さんなら元々持っていたネタが使える！と、すば新の鬼畜というか、言葉責めというか、Ｓ系エロにしようと思ったんだけど、コナンではあんまりエロ頑張ってなかったし、無料配布で、いきなりメインカプでもない危険物ペーパー出すってどうよ？と自主規制がかかりました。なので、無難に快新＋昴さんに落ち着きました。まあ、ありがちネタで。ちなみに、今回の昴さんは白昴さんです。意味深なだけで腹黒くないです。がっつり腹黒系の黒昴さんのＳ系エロは、また今度そのうちこっそりやります（苦笑）。

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