灰原さんのバレンタインデー

　阿笠邸にて、口元に浮かべた微笑と共にそれは差し出された。
「はい、どうぞ」
　快斗は差し出された物と差し出した人物の顔を見比べた。
　差し出された物は、ピンクの包装紙で綺麗にラッピングされたチョコレートと思しき物体。差し出したのは、白衣姿の見た目は小学生の灰原哀。
　確かに、今日は世に言うバレンタインデーで、女の子が男の子にチョコをあげる日ではあるけれど。
　『帰りに寄ってちょうだい』という哀からのメールに従って、阿笠邸に足を運んだものの。
　灰原哀とチョコレートの組み合わせは、快斗の想像を絶していた。しかも、微笑付きで自分に差し出されるなんて、夢というより悪夢に近い。思わず自分の頬をつねってみる。痛い。
「どうしたの、黒羽くん？」
「あ、哀ちゃん、気持ちは嬉しいんだけど、オレには新一っていう心に決めたスイートハニーがいるんだ！」
「何を言っているの？　熱でもあるの？」
「え、いや、だって、チョコレート･･･」
「吉田さんに言われて手伝ったのよ。余ったからお裾分け。あなた、甘い物好きでしょ？」
「あ、何だ。そういう事か」
「どういう意味？」
「いや、何でもないです」
　安堵の溜息をついた快斗を怪訝そうに見る哀に、快斗は慌ててピンクの包装物を受け取った。
「ありがとう、哀ちゃん、嬉しいよ」
「どういたしまして。良かったら、食べてみて」
「ちょうど甘い物が欲しかったんだ。いただきます」
「召し上がれ」
　丁寧に包装を開いていく快斗を、哀はソファに座って眺めた。
「アメリカではバレンタインデーというのは親しい人にプレゼントを贈る日だったけれど、日本では女性から男性に主にチョコレートを贈る日なのね。吉田さん、はりきって作っていたわ、クラスメートの男の子達の分を」
「はは、義理チョコなのに手作りか。優しいなぁ、歩美ちゃんは。本当は愛の告白と共に贈るものなんだけどね」
　つい最近までそんな日の事を知らなかった快斗だが、外国育ちの哀に日本の常識と言わんばかりに説明をする。話す合間に、哀のチョコを全て平らげ、指先についたチョコも綺麗に舐め取った。
「ちょっと甘さが控えめで苦味が効いていて、大人向けの味だね。美味しかったよ、哀ちゃん。ご馳走様」
「それは良かったわ」
「で、博士にはもうあげたの？　喜んだだろ？」
「？　何の事？」
「だって、チョコ作ったんだろ？　オレにくれたって事は阿笠博士にもあげたんだろ？」
　彼女にとってチョコを贈る対象になり得る一番親しい男性は自分ではない事を、快斗はよく分かっていた。
「まさか」
　快斗の言葉に哀は足を組み替えて、鼻で笑った。
「博士にそんな危ないもの、あげられるわけないじゃない」
「･･････はい？」
　固まった快斗の目の前で、哀はメモ帳を取り出し記入した。
「17時38分投与　被験者全摂取、と。黒羽くん、悪いけど二時間はここに居てちょうだいね。経過が見たいから」
「哀ちゃん、さっきのチョコって･･･」
「ちょっと味に特徴がある薬物なのよ。吉田さんのチョコレートの余りをもらえて良かったわね、黒羽くん。あまり苦くなかったでしょ？」
「いや、そういう問題じゃあ･･････」
「あなた丈夫だから、本当に助かるわ」
「哀ちゃん、さっきオレが食べたチョコに一体何が入っていたの!?」
　堪らずに快斗が叫んだ。
「教えてあげてもいいけど、聞いても後悔しないでいられる自信があるかしら、黒羽くん？」
　白衣の少女は科学者の顔で綺麗な笑みを閃かせた。

　Happy Valentine　＆　God　Bless　You！

（2007.02.12）

なーんてね。ありがち灰原さんネタですみません。何かバレンタイン物をと思ったんだけど、普通に快新でもＫコでも思いつきませんでしたよ。ラブラブ物は私には無理ですたorz
マッドな灰原さん、大好きです。どう転ぼうが、快斗は不憫（苦笑）。

お粗末さまでしたｖ 窓を閉じて下さい お粗末さまでしたｖ

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