2010
ワールドカップ

　バタンと玄関が開いて、ばたばたと廊下を駆けてくる音が聞こえる。到達予想時刻を違わず、居間のドアが開いた。
「哀ちゃーん」
　灰原哀の顔を見るなり、黒羽快斗は泣きついてきた。
　哀は一瞬、以前光彦達と見た未来の猫型ロボットが出てくるアニメの主人公が助けを求める姿と快斗の姿が重なった。
「一体、何の用かしら、黒羽くん。高校生が半べそで他人の家に駆け込んでくるなんて、尋常じゃないと思うけど」
「哀ちゃん、聞いてくれよ」
「何を？」
「新一が、酷いんだ！」
「そんなの、いつもの事でしょう」
　特に、黒羽快斗に関する事なら、あの探偵は容赦がない。
「でもでも、いつもより酷いんだ」
「はいはい、分かったから、順を追って説明してくれる？」
　快斗が赤くした鼻を鳴らしている。この情けなくも可愛い生き物が高校生で、ハートフルな怪盗をやっているというのだから、世の中何かが間違っている。
「オレの誕生日が6月21日だから、新一に聞いたんだ。“21日って何の日か知ってる？”って。前に、オレの誕生日が何日なのかは教えてあったし。なのに、全然日にちが近くなっても反応がないから。そしたら･･･」
「そしたら？」
「スイス対チリ戦がある日だって」
　わっと快斗は泣き伏した。
　折しも世界中が今はサッカーのワールドカップで盛り上がっている。自身もサッカー選手だった工藤新一が、盛り上がっていても不思議はない。むしろ、盛り上がってない方が不思議だ。

『場合によっては、これでグループHの一次リーグ通過のチームが決まるかもしれないからな。見逃せないよな』
『いや、そうじゃなくて』
『ああ、スペイン対ホンジュラス戦の方か。何たって、無敵艦隊スペインの1次リーグ敗退かどうかがかかっている試合だから、こっちも忘れずに見ないとな』
『いや、その』
『勿論、心配しなくても、ポルトガル対北朝鮮戦も忘れてないぜ。本当にこの期間は、寝てる暇がなくて困るよな』

　工藤新一の笑顔は、それは清々しく爽やかだったと言う。

「前に教えたのに。オレの誕生日なのに、酷くね？」
　工藤新一がレプリカユニフォームを着て自宅の薄型大型液晶テレビの前で、大盛り上がりをしている姿が目に浮かぶようだ。
　哀は、大きく息を吐いた。
「諦めなさい、黒羽くん。貴方ではワールドカップに勝てないわ」
「でも、恋人の誕生日なのに！」
「仕方ないじゃない。貴方の誕生日は1年に一度は来るけれど、ワールドカップは4年に一度しかないのよ？　工藤くんがどちらを優先させるかなんて、言うまでもないでしょ」
「う･･･」
　盛大に泣き伏す怪盗の嘆きをBGMに、哀はファッション雑誌に視線を戻した。

（2010.06.21）

　　　　　　　　　

オチはないです（苦笑）。
単に、ワールドカップネタを書いてみたかっただけです。時事ネタ時事ネタ。にわかなので、適当な内容で申し訳ない。
快誕だけど、サッカーに燃えている工藤さん萌え。あと、快斗に酷い工藤さん萌え。ていうか、快斗不憫萌え。遠回しすぎる快新ネタで、すみません。
誕生日なのに、虐げられネタでごめんね、黒羽さん。


お粗末さまでしたｖ 窓を閉じて下さい お粗末さまでしたｖ

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