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窓を閉めてください | |
| C A L L |
| ベルが鳴っている。 電話のベルだ。自分を呼んでいる。 出なければいけない。 ベルが鳴っている。 周囲を見回しても、鳴っている筈の電話がない。 何ということだ。 早く電話に出なければならないのに。 ベルが鳴っている。 気持ちが焦るが、それでも、電話は見つからない。 早く出ないと、間に合わなくなってしまう。 間に合わなくなる？ 何に？ 東方司令部に仕掛けられた爆弾は、幸いにも時限発火装置が壊れていた為、大事には至らなかった。 実行犯は東部のメジャーな過激派である「青の団」のメンバーですぐに逮捕された。出番のなかった犯行声明分も隠れ家から押収された。 声明文の内容に独創性はなかった。ただ最後に添えられた一文がスパイスを効かせていたと言えよう。 『マスタング大佐に死を』 「嫌われたものだな」 東方司令部爆破未遂テロの報告書に眼を通しながら、焔の錬金術師ロイ・マスタング大佐は楽しそうに笑った。 報告書の提出にきていたハボック少尉も、器用にタバコを咥えながら大佐に負けずに皮肉な笑みを浮かべた。 「こないだの列車乗っ取り事件の時に、奴ら相手に派手に名前を売っちまいましたからね」 「護衛もなくうろついている、エルリック兄弟の名前を出すわけにはいかないからな」 「おかげで、少なくとも、彼らにとってはハクロ少将よりも大佐の存在の方が気に入らないものになったようですわね」 「光栄な事だ」 資料整理していた副官のホークアイ中尉の言葉を、涼しげに受け流す。 「人の死なない戦争はない。人を殺さない兵器はない。力で支配しない軍事政権はない。つまり、そういう事だ。 全ての人間にとって不平不満のない抑圧されない政治などあり得ないのだからな。暴力は論外ではあるが、正当なる批判は甘んじて受けようではないか」 「受けないで聞き流してるだけじゃないっすか、大佐は」 「それも一つの手段だ」 「へいへい。憎まれっ子 世にはばかるってヤツですな」 ハボック少尉が敬意はあるが礼儀を感じさせないラフな敬礼をして、退室していった。賑やかな男が去って、静寂が訪れる。 ふと視線を窓に向け、東方司令部司令官は呟いた。 「憎まれっ子 世にはばかる、か」 「何ですか？」 小さな呟きだったが、ホークアイ中尉は聞き逃さなかった。 窓に向いたまま、焔の二つ名を持つ錬金術師は苦笑した。 「いや、ヒューズの口癖だったな、と思ってな。私を評してよくそう言っていた。私からすれば、ヒューズの方が世渡りもうまいし、要領もいいし、よほど長生きすると思っていたのだがな。･･･分からないものだ」 過去を振り返るのは好きではない。通り過ぎた影は捕まえられないものであると、嫌というほど身をもって知っている。 けれど。 電話のベルが聞こえる。 「誰に恨まれようと、逆恨みをされようと、私は私の行く道を変えようとは思わない。その為に誰が憂き目を見ようが知った事ではない。私が大佐の地位を得たのは、能力に対する当然の評価ではあるが、勿論、その影で割を食った人間が存在する。数多の恨みつらみが聞こえてこない訳ではない。なのに、不思議なものだな、ホークアイ中尉」 「何がですか？」 「後悔している事は唯一つだけだよ」 何故、あの時、部屋を空けていたのだろう。 何故、もっと早く電話に出てやれなかったのだろう。 それだけだった。 「あの時、部屋にいて電話を受けたとしても、恐らくヒューズが殺される事に変わりはなかっただろう。それでも、あいつの最期の言葉を聞いてやれなかったのが、心残りだよ」 野心家の軍人は、恐らく、たった一人の副官の前でだけ見せるただの人間の顔で、自身を嘲るように小さく笑った。 ベルが聞こえる。 決して出る事のできない電話のベルだ。 決して言葉が届かない電話のベルだ。 ベルの向こうに、友が一人。 受話器の先に、死体が一つ。 ベルが聞こえる。 あの時のベルの音が耳から離れない。 いつまでもいつまでも、消える事のない後悔が鳴っている。 (2003.10.26UP) |
| KAZUKIさんからの「777」キリ番リクエストでしたｖ 遅くなりまして、本当に申し訳ありませんでした〜。テーマは「ロイ中心で、振り回されネタか黒いネタ」でしたが、例のごとく外しちゃいました(；¬_¬) 自分的には、ロイは「真直ぐな野心家」さんで、属性は「光」なんですよね〜。あまり黒いネタが思いつかなかったので、謎な乙女ちっくになってしまいました（汗）。振り回されるロイというのも、なかなかに難しくて、安易なヒューズネタに逃げてしまいました(T△T) KAZUKIさん、ごめんなさいー！ ちなみに、ロイネタを探すので、原作を読み返していたのですが、気づけばハボック少尉ばかり目で追っておりました(￣▽￣；)ゞ 現在、自分の中でハボック祭りが開催中です（苦笑）。 壁紙は多彩館さまから（いつもお世話になります）。 |
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