理由

　夜中にふと目を覚ます。
　場末の宿や砂漠の岩陰。そんな普段の夜ならば、目覚めても独りなのに、今は違う。
　身体を起こしたアーバインが隣に視線を向ければ、そこには眠る人間がいた。窓からの月明かりに透かして見れば、柔らかな金髪は月光を弾き、白い端正な寝顔は冷たく冴えて、神の手による芸術品の価値をその美しさで表現する。
　地位も名誉も権力も、人が羨むあらゆるものをほぼその掌中に収めている男、カール・リヒテン・シュバルツは穏やかに寝息を立てている。

　今いる屋敷はシュバルツが個人で所有する別荘で、普通ならば、滅多にお目にかかれない天蓋付きベッドでアーバインはシュバルツと同じ夜を過ごしている。少し前まで、シュバルツはその怜悧な外見を裏切り、アーバインを激しく求め、奪い尽くした。シュバルツの与える熱と快楽に振り回され、気絶と眠りの境も分からずアーバインは意識を失ったのだ。

　アーバインは大きく溜息をついた。
　窓の向こうには二つの欠けた月が冷然と輝いている。月光に透かして、アーバインの肌には独占を主張するようにシュバルツが愛した跡が無数に残っていた。

「跡をつけるなって言ったのに」

　言えば言っただけ、余計に跡をつけられた気がする。冷静沈着な指揮官はベッドの中では時折子供じみた真似をする。
　餓えた獣が獲物を喰らうように、敬虔なる人が祈りを捧げるように、迷える魂が救いを求めるように、シュバルツはアーバインに触れ、貪る。向けられる想いの深さを感じる時、その重さにアーバインは息苦しくなる。
　アーバインは再び大きく溜息をついた。

「どうかしたのか？」

　眠っていると思っていた隣のぬくもりから声をかけられ、アーバインは不覚にも驚いた。シュバルツはかまわずにアーバインの手を取ると、その指先に唇を寄せた。

「冷えている。風邪をひくぞ」

　腕の中に収めようと引き寄せるシュバルツの手をアーバインは振り払う。

「アーバイン？」

　冷たい仕打ちに怪訝そうに、シュバルツも身体を起こす。ほんの少し前、アーバインはその意外にしっかりと筋肉のついた軍人の身体の下で、淫らに喘ぎ、痴態を晒した。
　アーバインは視線を逸らしたまま、疑問をぶつけた。

「あんたは、一体オレの何処を気に入ってるんだ？」
「難しい質問だな。敢えて、一言で云うとするのなら･･･」

　優雅な仕草で、シュバルツは顎を手に当てて考え込み、一言で明快に答えた。

「体」
「帰る」

　返答に即答して、ベッドを降りようとしたアーバインの腕を、シュバルツが素早く掴んで抱き寄せた。

「離せ、エロ軍人」
「待て待て。冗談に決まっているだろうが」

　逃れようとアーバインはもがくが、抱きしめる腕の強さに抵抗を諦める。夜気に冷えた身体が触れ合う素肌のぬくもりに安堵したのも、また事実で。
　シュバルツはアーバインを抱きしめたまま、詠うように囁く。

「決して負けない瞳、憎まれ口ばかりの唇、最速のゾイドを自在に操る手足、どれもが皆、私の心を離さない。勿論、気に入っているのは、体だけではないぞ。お前が生きた時間、自由な魂、お前を構成する全てが私は愛しい。そんな質問をしてくるところも、全てだ。どうだ、この答えでは不服か？」

　答えずに、アーバインは赤くなっているだろう顔をシュバルツに見られないように、不本意ながら、その胸に顔を埋めた。
　そんな意地を張る賞金稼ぎの姿に、シュバルツは楽しそうに目を細める。

「ならば、私も訊こう、アーバイン。何故、お前は私に抱かれるのだ？」
「巧いから」

　一片の迷いもない答えに、空気が音を立てて凍りついたが、アーバインは気づかない。

「･･･アーバイン、他に云う事はないか？」
「いや、特にないな」
「何か言い残す事もないか？」
「？　何だよ、物騒だな。･･････って、おい!?」

　シュバルツに強引にベッドに倒され、のしかかられて、アーバインは慌てた。

「おい、シュバルツ、まさか、あんたまだヤル気なのかよ!?」
「折角、お褒めの言葉をいただいたからな。期待に応えねばなるまい」
「え？　いい！　別に期待なんざしてねえ!!　第一、オレはもう疲れた」
「私は元気だ」
「あ･･･」

　押し付けられた腰の強さを直に感じて、その凶暴さに、正直にアーバインは怯えた。
　シュバルツが楽しそうに喉の奥で笑って、愛しい賞金稼ぎの頬に口づける。

「そんな顔をするな。手加減できなくなる」
「な･･････やめ･･･や、だっ、シュバルツ！」

　無駄に等しい抵抗はあっさりと封じられた。シュバルツは優しく美しく笑んだ。

「今夜は眠らせないからな」
「うああっ！」

　シュバルツの言葉どおり、アーバインが淫らな熱から解放されて、静かな眠りにつけたのは、日が昇ってからの事だった。
　その日一日、アーバインがベッドから起き上がる元気もなかった事は言うまでもない。

（2005.01.29初出　2006.01.09改訂）

バカップルネタ、失礼しました(￣▽￣；)
これは以前にイベントで無料配布したものを、ちょっとだけサイト用に手直ししたものです。手直しというか、正確には大した事はなかったエロ気を抜いて、更に薄味にしただけです（苦笑）。
コレでも、すっげーラブラブ（当社比）ってところが泣けますな。
お粗末さまでしたｖ 窓を閉じて下さい お粗末さまでしたｖ

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