コナン「約束1」

約束　1

　快斗は机に突っ伏して、重い息を吐いた。
　最近、裏稼業でオーバーワーク気味だった。昨夜もこれから狙う獲物のリストアップと調査に忙しく、結局夜明け間近まで起きていた。
　幼なじみの明るい声が教室に響いた。
「快斗、どうしたの？　暗いよぉ」
「ほっとけよ、オレは疲れてんだ」
「何よ、折角トロピカルランドの無料券二枚もらったから、誘ってあげようと思ったのに」
「へえへえ、そりゃありがとさん。オレよりも桃子ちゃんと行って来いよ。大体、トロピカルランドなんて、土日に行ったって人ばっかりじゃねえか」
「だから、平日に行くのよ」
「へ？」
「もう、快斗、明日から春休みだって分かってる？」
「あ、ああ。そうか、春休みか」
　テスト休みも怪盗業で忙しく動き回っていた。久々の登校日かったりぃと思っていたが、今日は終業式だ。晴れて明日から春休みである。
「春休み･･･。もうすぐ4月か･･･」
　ぶつぶつ文句を言いながら、級友の所へ行く青子の背中を見送りながら、快斗は気がついた。
　4月と言えば、あの探偵工藤新一と初めて出会った時だ。
　そういえば、最近、件の探偵に会っていない。快斗も怪盗業が忙しかったのもあるが、新一も探偵業が忙しいようだった。キッドの現場にも来ない。要請されてもいないのにわざわざ出てくるほど、今の日本は凶悪事件専門の探偵を暇にさせてはくれないらしい。
　何日会ってないだろうか、と指折り数えてみる。ひと月以上会ってない。
　そう気がつくと、無性に会いたくなった。
　会いたいと、胸が痛む。
　そう思う痛みすら甘く感じられて、快斗は自分があの凶悪な探偵にこれ以上ないほどハマっていると実感する。

　終業式を終えて、遊びに行こうと声をかけてきた級友達の誘いを断わり、家に帰ると、快斗は机に向かった。
　しばらく白紙の紙を睨みつけるようにして腕組みをして考え込む。おもむろにペンを取った。

『季節外れの花火が弾けたあの日　あの時　あの場所に来られたし』

　暗号で誘い出そうかとも思ったが、そういうのではなくて、来てもらいたかった。
　今すぐに会いたい気持ちを抑えて、初めて会った4月1日にもう一度出会おう。
　甘い痛みに耐えた分だけ、きっと喜びも増す筈だから。
　我ながら少女趣味だと思って、苦笑する。

　快斗は小さな紙片をくるくると巻いて、肩にとまっていた鳩の足につけた留め具に入れた。
「悪いけど、これを新一に届けてくれな」
　指に移らせ、鳩に軽くキスをする。
「“愛してるよ、新一”　なんてな」
　照れ笑いを浮かべながら窓辺に移動し、手首の返しで鳩を飛び立たせる。
　白い姿を見送りながら、快斗は新一に会える日を考えて胸躍らせた。

（2007.03.28初出/拍手邂逅記念SS）
（2007.07.19）

窓を閉じて下さい

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