Brute
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　怪盗キッドこと黒羽快斗は、それから工藤の家に頻繁に出入りするようになった。工藤邸の中に、彼の荷物が少しずつ増えていく。
　工藤はソファで雑誌を開きながら、他人の家でマメに働く男を見た。黒羽は自分のエプロンをつけて、今は楽しそうに、二人分の夕飯を作っている。
　今も変わらずに黒羽は怪盗で、工藤は探偵だった。けれど、他人とは共有できない秘密は相容れない筈の二人を近づけた。
　窓の外を見上げれば、鮮やかな満月が浮かんでいた。時折、眼を閉じると、何もない瞳を思い出す事があった。
　彼の瞳は虚無に似た闇をたたえていた。一歩間違えれば、工藤もまた彼と同じ、〝死〟に取り憑かれてしまうのかもしれない。
「工藤、眠いのか？　コーヒーでも飲んでな」
　陥りそうになった思考の奈落から、黒羽の声が引き上げてくれる。目の前にコーヒーカップが置かれていた。
「どうかしたのか？」
「いや、何でもない」
　探偵と怪盗は相容れない存在だけれど、だからこそ欠けた何かを求めて、惹かれ合ったのかも知れない。
　かつて、人を殺す事しか知らなかった男には、死以外に何もなかった。だが、工藤には少なくとも、今は黒羽がいる。
　触れてきたのは黒羽からだったが、多分誰かのぬくもりがより必要だったのは、工藤の方だろう。工藤はカップを取り上げ、黒羽の淹れたコーヒーを飲んだ。
　多分、このコーヒーを美味しいと感じられる限り、自分が彼のように人の枠からはずれる事はないだろう。
　黒羽の淹れてくれたコーヒーの温かさと優しさに、工藤は口元に笑みを浮かべた。

　終


（2008.03.16初出　2016.7.28再掲）

26 　　　　　　　　　　　　　　　　　


お粗末さまでしたｖ 窓を閉じて下さい お粗末さまでしたｖ

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