Brute26

Brute
26

　シュヴァルツは、恐らくこの世にもう居ない。
　想像を絶する痛みの中で、彼はやはり人を殺したいと願いながら死んでいったのだろうか。
　彼が生まれながらの殺人鬼とは思わない。他の生き方を知る事が出来たなら、また違った結果になっていたに違いない。そう信じたかった。
　人を殺す事でしか存在を許されなかった、不幸な男。最も不幸なのは、彼は自分が哀れだとも不幸だとも気づいていなかった。
　気づくと、キッドもまた工藤のように険しい顔で黙り込んでいた。
「キッド、どうかしたのか？　大丈夫か？」
　声をかけると、手を掴まれ引き寄せられた。
「工藤」
　決して強い力ではない。けれど、工藤は怪盗の手を振り払えなかった。
「あ」
　抵抗らしい抵抗も出来ないまま、小さな声が意図せず漏れた。それを塞ぐように怪盗の唇が、柔らかく触れてくる。
　あの日は触れなかったが、その時も拒めなかった唇を、どうして今更拒めるだろうか。
　キッドのキスは静かに優しく繰り返され、どうしていいか分からずに強張っていた身体も、その甘さに徐々に緩んでいった。
　気づくと、キスの合間に怪盗の手は工藤のシャツの釦を外していた。あの日の誰かのように、キッドは工藤の首筋に顔を埋めた。
「っ」
　甘く鎖骨に歯を立てられた。縛られているわけではないのに、工藤は抵抗出来なかった。
　首筋に顔を埋めたまま、キッドが肌に触れる唇で自白する。
「あの日、こうしていたあいつを見た時、どうしようもなく悔しかった」
「何故？」
「決まっているだろ」
　ソファに置いた手に、怪盗の手が重ねられた。
「オレが工藤を好きだからだ」
　その、愛嬌があるのにどこか淋しい笑顔に、工藤は流される自分を自覚した。

　黒羽の手が唇が肌を辿るたびに、工藤の身体が跳ねた。触れた箇所から熱が生まれる。耐え難いのか、ソファに組み敷いた身体はあられもなく身悶える。
　開かせた足の奥で受け入れさせた黒羽の熱に焼かれて、工藤の身体は仰け反った。
「あ、ああっ」
　いやらしい硬さに熟れた胸の果実を口に含めば、敏感に工藤の中が黒羽を締め付けてくる。
「やあ･･･あ･･･っ･･･キ･･････ド･･･」
　快楽に翻弄されて、工藤が喘いだ。黒羽が白い身体を掻き抱くと、その刺激で更に乱れる。
「工藤っ」
　一瞬でも彼の心を捉えた、闇に奪われないように工藤を抱き締める。行き場に迷った腕が、縋るように黒羽の背中に回された。立てられる爪の痛みすら嬉しかった。工藤に繰り返し口づけながら、その耳元に甘く囁いた。
「工藤、呼んで」
「？」
「オレの名前を」
「･･･な･･･まえ･･･」
「そう。快斗って言うんだ。黒羽、快斗」
「･･･くろ･･･ば･･･かい･･･と･･････あっ、ん」
　濡れた唇に名前を呼ばれただけで、工藤の中に留まる黒羽の熱は正直に力を増した。腕の中の身体が限界を訴えるように、小刻みに震えている。
「･･･新一･･･！」
　手に入れた淫らな熱に翻弄されて、黒羽は抱き締めた白い身体を貪った。

（2008.03.16初出　2016.7.28再掲）

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