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窓を閉じて下さい | |
| Purgatory 10 |
| 新一がそのビルに駆けつけた時には、既に煙が上がっていた。 犯罪組織の拠点の可能性があるとして、示した条件を高木に調べてもらい、ピックアップした数カ所のビルの一つだった。タイミングといい、恐らくここに快斗が、いや、怪盗キッドがいる。 煙を見た通行人からの通報らしく、ビルの前には消防車と救急車が連なり、そして、新一が呼んだ警視庁のパトカーが続々と到着していた。 一台のパトカーから降りてきた高木が新一を見つけ、駆け寄ってきた。 「工藤君、これは一体どういう事なんだ？」 「ここは、ある国際的犯罪組織の日本での拠点です。多分、今入れば、不法行為の証拠がいくらでも出てくる筈です。幸い、何故か分かりませんが、出火しているようですし、人命救助に消防や警察が突入しても問題はないでしょう」 「確かに、それはそうかもしれない。目暮警部に許可をもらってくる」 高木の背中を見送って、新一は踵を返した。新一は警察組織の人間ではない。高木の返事を待ってはいられなかった。火事と野次馬、ビルの中にいた一般人が逃げてくる混乱に乗じて、新一はビルに入り込んだ。 ビルの内部は更に混乱していた。ビルの下階には一般のテナントが入っており、一般市民が逃げ惑っていた。新一はビル関係者の緊急避難用のエレベーターを使って、上階を目指した。高木がピックアップしたリストを元に、志保に手伝ってもらい非合法で手に入れた、各ビルのそれぞれの構造図を頭に叩き込んでいたのが役立った。火事の影響でエレベーターが途中階で止まったので、そこからは階段に切り替えて駆け上がる。 最上階がビルのオーナーのプライベートフロアになっていた。 恐らく、怪盗キッドはそこにいる。 快斗は組織のボスを追い詰めたが、あと一歩のところで逃げられた。ビルのあちこちから火の手が上がっている。最初の火事は、確かに快斗が攪乱用に仕掛けたものではあった。しかし、今起こっているものは、予め組織が警察や不測の事態に陥った時に、証拠隠滅をはかる為にビルに仕掛けていたおいたものだ。あちこちから爆発音が上がっている。快斗がいるフロアも、ボス自らが、自分が逃げる為とキッドを殺す為に火をつけた。 「キッド！」 もう会えないと思っていた声に、名前を呼ばれて、快斗は心臓が止まるかと思った。振り向くと、幻でも夢でもなく、もう一度会いたかった本物の探偵がそこにいた。肩で息をしている。階段を上ってきたのだろうか。驚きが苦笑に変わる。 「さすが、新一。あの手紙にはヒントも何もなかったのに、ここまで辿り着くなんてな」 「バーロー、探偵をなめんじゃねえよ」 息を整えて、あの夜のように、新一はキッドへ手を差し出した。 「来いよ。この階も結構やばい事になっている。早く逃げるぞ」 快斗は新一の手を見つめ、静かに頭を横に振った。 「ダメだよ、新一。一番悪い奴が逃げている。そいつを捕まえないといけないんだ」 「大丈夫だ。このビルは警察に包囲されている。後は警察に任せろ」 「でも、オレはオヤジを殺すように命じたあいつを許せない。オレの手で決着をつけなきゃいけないんだ。でないと、何も終わらない。終われない」 「キッド！」 新一が近づこうとしたその時、壁の一部が崩れて炎が吹き出してきた。快斗と新一の間を阻むように激しく燃え盛る炎が壁を作った。多分、これが怪盗と探偵の正しい距離だ。快斗は穏やかに笑った。 今度こそ、探偵に別れを告げて、快斗は諸悪の根源である組織のボスの後を追った。 （2008.05.04初出 2022.03.29再掲） |
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