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| Purgatory 11 |
| ビルの屋上にあるヘリポートは爆発の影響で、使い物にならなくなっていた。緊急用のヘリは既に飛び立った後だった。 組織のボスが強風の吹く中、声を張り上げている。 「何をしているか！ 私はここに居るんだぞ。早くヘリを降ろせ！」 人間の声が上空のヘリに届く筈もなく、照明も壊れ、恐らくヘリからは屋上に人がいるかも判然としないだろう。 「いい加減、諦めたらどうです？ 貴方は手下に見捨てられたんですよ」 白いマントが強風に流れている。ボスは憎しみを込めて、目の前の男を睨みつけた。 「怪盗キッド！ 私の邪魔ばかりしおって。こうなったら、ここで今度こそお前を殺してやる！」 酷薄な笑みを貼り付けたキッドは、見せつけるようにゆっくりと右手を上に上げた。くるりと手首を返した次の瞬間には、その手の平にビッグジュエルが出現した。 「それは、まさか」 「三日月でも、十分に見えるでしょう？」 かざした月の光を受けて、大粒のダイヤモンドの中にもう一つの赤い宝石が輝いた。 「パ、パンドラ！」 あらゆる権力者が栄華を極めた果てに求める、究極の願い、不老不死を叶えると言われる宝石。それが今、キッドの手の中にあった。ボスの目の色が変わる。 「よこせ！ それは私のだ！」 キッドは涼しげに笑んだまま、ボスを無視して話し続ける。 「知っていますか？ ダイヤモンドは硬いというイメージがありますが、鉱物としての靱性はそんなに大きくありません」 「私が、不老不死になるのだ！」 「靱性が大きくないという事は、すなわち瞬間的に加えられる力に弱いと言う事です」 「貴様、何を言っている!?」 ようやくキッドの不穏な言葉が耳に届き、ボスの顔色が変わった。 「つまり、こういう事です」 「やめろーっ！」 キッドは腕を振り上げると、そのまま渾身の力でダイヤモンドを屋上のコンクリートへ叩きつけた。 ビッグジュエルに数えられた、大粒のダイヤモンドは叩きつけられた衝撃に、儚い音を立てて粉々に砕け散った。破片が炎を受けて煌めきながら飛び散っていく。その内包する魔性の宝石パンドラと共に。 断末魔とも思える、ボスの絶叫が屋上に響き渡った。がくがくと身体が震え、その場にへたり込む。 「･･･パンドラが･･････、私の･･･不老不死が･･････」 何十年も追い続けたものが目の前で消えた衝撃に、ボスは一気に老け込んだようにみるみる生気を失っていった。 最上階近くで爆発が起こり、屋上に亀裂が入った。組織のヘリも本当にボスを見捨てたようで、もう近くにはいなかった。 「アンタと心中ってのは嫌だが、まあ、仕方ないかな」 誘爆が次々と起こり、屋上の亀裂が広がり、炎が上がってきた。 「オヤジ、終わったぜ･･･」 煙の向こうに見える星空を見上げて、快斗は呟いた。けれど、感慨を吹き飛ばす声が飛んできた。 「まだ終わりじゃねえ！」 炎の向こうに、工藤新一が立っていた。 （2008.05.04初出 2022.04.29再掲） |
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