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窓を閉じて下さい | |
| Purgatory 6 |
| がちゃりと鍵が回る音がして、ドアが開く。疲れ切った新一を快斗の声が出迎えた。 「お帰り、新一」 リビングから顔を出した快斗が、新一を見て眉を顰める。 「どうしたんだ、それ？」 「ただいま。ちょっと、ドジった」 頬に当てられた真新しいガーゼに手を添えて、新一は苦笑した。 「メシは？」 「食ってきた。走り回って汗かいたから、オレ、風呂に入るわ」 襟元を緩めながら、新一はすぐに階段を上がって自室へ向かったから、自分を見送る快斗の、複雑な瞳の彩に気づかなかった。 風呂から出てくると、快斗はまだ寝ていなかった。落ち着いて読もうと、頭を拭きながら新聞を持ってソファに座った。快斗が目の前のテーブルに、缶ビールを置いた。 「お、気が利くじゃねえか」 勿論、お互いに未成年だから、などという当たり前の言葉は口にしない。快斗も自分の分を持って、新一の隣に座った。 「それ、どうしたんだ？」 缶ビールに口をつけながら、快斗が訊いてきた。目元の傷の事だとすぐに分かった。風呂に入る時にガーゼを取って、その後はそのままにしていた。剥き出しになった、頬骨のあたりから一筋、斜めについた切創は、まだ少し血の赤を滲ませていた。まるで、その筋の人間のような傷だなと脱衣所の鏡に映る自分を見て、新一は苦笑したものだった。 快斗の視線を横顔に受けながら、新一はばさりと新聞を広げた。 「言いたくねえ」 「訊きたい」 ずいと乗り出すように、快斗は引き下がらない。快斗が知りたがっているのは、下世話な好奇心ではなく、心配してくれているのだと分かる。 新一は一つ小さく息を吐いた。 「大した事じゃない。お前が心配するほどの事じゃないって」 そう言いながら、新一は自分の中での整理も兼ねて、事件の概要を快斗に語り始めた。 騙されて死に追いやられた恋人の仇を討つ為に、殺人を犯した女性がいた。彼女がアリバイ作りに施したトリックは、新一が完全に暴いた。逃げられないと悟った女性は、恐らく初めから覚悟の上だったのだろう。ナイフを取り出すと自殺しようとしたのだ。 初めから自らの死を覚悟していたからこそ、彼女は二人もの人を殺す事ができたのだ。 周囲の聞き込みをしても、彼女を悪く言う人間はいなかった。優しく聡明で誰からも好かれていた彼女は、その優しさ故に、罪を犯した。 だから、新一は走り回り、彼女を探した。恋人の死の復讐という目的を果たした彼女が、次にどんな行動に出るか、想像に難くなかった。 新一の予想通り、彼女は恋人との思い出の場所で自殺をしようとしていた。 警察と共に駆けつけた新一を見て、彼女は哀しい笑顔を浮かべた。 「どうして、死なせてくれないの」 「罪は罰せられなければなりません。過ちは償わなければなりません。何故なら、人は許されるべきだからです。だから、貴女も死なないでください。生きて、もう一度やり直してください」 「優しいのね、探偵さん。でも、それでも、私はあの人の傍に行きたい」 隠し持っていたナイフで、彼女は自分の喉を突こうとした。 「ダメだ！」 他の警官よりも早く反応した新一が、その腕に飛びつき、抵抗する女性からナイフを取り上げようとした。その際に、ナイフの刃が新一の頬を切り裂いた。 勢いよく鮮血が飛び散った。驚いて彼女の動きが止まったところを逃さず、新一はナイフを奪った。ナイフを奪われた彼女はその場に泣き崩れ、警察官に身柄を確保された。 警察署に連行される時、ようやく落ち着いた彼女は新一の傷を見て悲しそうな顔した。 「ケガをさせてしまって、ごめんなさい」 「気にしないで下さい。これは事故です。貴女の所為ではありません」 彼女は新一に頭を下げてから、パトカーへ乗り込んでいった。 その後、新一も警察へ行き、医務室で手当てを受けてから帰宅した。 （2008.05.04初出 2021.11.28再掲） |
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