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窓を閉じて下さい | |
| Brute 2 |
| 自室でパソコン画面を見ていた怪盗キッドこと黒羽快斗は思うような成果を得られず、舌打ちをした。 マスコミは連日、怪盗キッドが関与したと思われる殺人事件について報道していたが、被害者の身元は、いつまで経っても判明しなかった。 謎の被害者、残忍な手口、容疑者は怪盗キッド、これだけの要素が揃えば、無責任なコメンテーター達が口々に憶測を言い合い、バラエティと化している情報報道番組はネタに事欠かなかった。 黒羽は溜息をついた。先日の出来事を思い返してみる。 いつものように、警察の追手を撒いてグライダーで夜空を滑空していた。綺麗な満月を眺めて、我ながら鮮やかな手並みだったと、少しだけ自画自賛していた。そんな達成感と高揚感は、中継地点と定めたビルの屋上に降り立った時に、完全に霧散した。 軽やかに屋上のコンクリートに降り立ち、グライダーを畳む。人の気配、というよりは違和感に振り向くと、屋上の鉄柵に縛り付けられている男を見つけた。確認のために上空を旋回した時には、気づかなかった。油断しているつもりはなかったが、少し気が緩んでいたのかもしれない。 座った姿勢で両手首を鉄柵に括り付けられ、男は目を見開き、苦悶の表情を浮かべて固まっていた。腹の辺りから赤く血の跡が広がり、コンクリートを染め上げていた。確かめなくても分かる。男は既に絶命していた。 咄嗟に周囲を確認したが、人の気配は全く感じられなかった。この男を殺した人間は既に逃走した後のようだった。 黒羽は、後で警察の捜査の邪魔にならないよう、血の跡を踏まないように気をつけながら、死体に近づき、念のため首筋に手を当てた。脈動は全く感じられず、男の死亡は間違いなかった。しかし、血はまだ完全には乾ききっていない。男が死亡したのは、何時間も前というわけではなさそうだった。 「ん？」 黒羽は男の顔を覗き込んだ。歪んだ死に顔だったので、すぐには分からなかったが、見覚えがあった。確か、怪盗キッドと対立している、不老不死の宝石パンドラを狙う組織の一員の筈だ。以前、襲ってきた集団の中に、男がいた記憶がある。 今まで黒羽は自分が中継地点に選んだ場所で、たまたま殺人事件が起こったのかと思っていたが、被害者が組織の人間という事になれば、話は違ってくる。 今回の予告状に記した暗号めいた文章には、一応逃走方向を匂わせておいた。少し頭の回転の早い人間ならば、この場所を割り出す事は難しくないだろう。警察には無理だったようだが、キッドの行動を分析しているだろう組織ならば、この場所に辿り着く可能性はある。 仲間割れの末の見せしめか、それとも、怪盗キッドに対する何らかのメッセージなのか。それにしては、死体以外にあるのは、男の物と思われる拳銃のみで、どんな意図も読み取れない。ならば、組織に敵対する第三勢力が現れたと見るべきか。 黒羽が考え込んでいると、階段を上ってくる足音に気づいた。屋上から下を覗けば、ビルの前にパトカーが停まっているのが見える。 死体の謎は気になるが、このままこの場所に留まって警察に捕まるわけにはいかない。屋上への扉が開くのと、グライダーの帆を張るのがほぼ同時だった。 これで立派な殺人事件の容疑者か。 警察官の「待て、動くな」の声を聞きながら、黒羽はビルの屋上から飛び立った。 （2008.03.16初出 2014.06.15再掲） |
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