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窓を閉じて下さい | |
| Brute 4 |
| 迷いはあったが、黒羽は予告状を出した。それが怪盗キッドのスタイルである。脅しかどうかも分からないものの為に、怪盗キッドが犯行を止める訳にはいかない。 それでも、いつもよりは控えめにしてみた。 予告状を届けたのは、犯行予定日の前日の夕方。予告状を出す対象は、標的の宝石が展示してある美術館と警察のみ。マスコミ関係にかぎつけられないよう注意し、美術館よりも先に警察に送った。 今回は、警察にとって、怪盗キッドは殺人事件の容疑者でもある。キッドの予告状に関しては、マスコミに一切漏らさず、美術館にも発表を控えさせた。黒羽の期待通りの対応である。 怪盗キッドの犯行予告日を知る者は、警察関係者と美術館関係者、後は怪盗キッド本人だけの筈だった。 いまだ殺人事件の被害者の身元は分からず、最有力の容疑者は怪盗キッドのままだった。その為、予告当日の警備は、捜査二課だけでなく、一課も加わる豪華さとなった。尤も、予告状が届けられてから、予告日まで一日の時間もなく出来る警備は人海戦術ぐらいしかなかった所為でもある。 警察無線を傍受して、警備体制を確認していた黒羽は、軽く息を吐いた。 今のところ、探偵の名前は出てきていない。人手は十分だろうし、何より探偵の知恵を借りなければならないような暗号を予告状に使っていない。 探偵が出てくる余地はない筈だ。 先日の死体の意味が気にならないと言えば、嘘になる。しかし、まずは、キッド本来の仕事に集中しなければならない。 黒羽は無線を傍受していたヘッドフォンを外して、怪盗キッドとして華麗に宝石を奪いに行く為に、立ち上がった。 雑然とした廃ビルの中で、男は鼻歌混じりにナイフを磨く。硝子のない窓から見える月にナイフを翳せば、月光を弾いて刃は凶悪に輝いた。先日人間の身体を切り刻み、吸ったばかりの血の曇りは、一点もなかった。 長年使用している愛用の大型ナイフの仕上がりに、男は満足する。次に使う時も、きっと自分の望むように人間を切り裂いてくれるだろう。 「薬も手に入った事だし、あとはパンドラだけ。さて、貴方はどう出るかな、怪盗キッド？」 月光に煌いた凶刃が、謳うような呟きと熱のない笑顔を浮かび上がらせた。 （2008.03.16初出 2014.08.30再掲） |
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