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窓を閉じて下さい | |
| 天に祈りを 12 |
| 展示室のあるフロアで、キッドの話を聞いた新一は顎に手を当てて考え込んだ。 キッドの話では、電子ロックの前まで案内してくれた秘書の笠原は伊勢崎のフロアに関して、キッドに必要な情報、パスワードを教えた後、風間のフロアに戻っていったらしい。キッドはというと、伊勢崎のオフィスには侵入せずに、そのままこの展示室フロアまで戻ってきたのだった。 何故と問う新一に、笠原の姿をしたキッドは視線を泳がせて、言葉を濁した。勿論、新一が曖昧表現を許すはずもなく、問い詰めると観念して口を開いた。 「とりあえず、まず名探偵の怪我が気になってさ」 新一が逃げ出すくらい自力で出来るのは分かっていたが、やはり出血をしているのが気になったらしい。逃げ出した後、動けなくなっていたらいけないと思い、キッドは戻ってきたのだった。展示室フロアのパスワードは、風間達が入力しているのを、それこそ泥棒らしく盗み見ていたという。 「オレの心配なんて、余計なお世話だ」 「ああ、まあ、分かってはいたんだけどね」 変な話だが、風間にとって新一は人質ではなかった。だから、キッドが心配して駆けつけるなどという事態は想定していなかったのだろう。捕まえた新一に、監視すらつけていない。だから、新一も簡単に逃げ出した。風間にとって、キッドに対する人質、物質はオルゴールについたアメシストだった。風間は、キッドが欲しがっているアメシストと引き換えに、頼んだ仕事をやり遂げると信じて疑わなかった。 「でも、オレに言わせれば、盗むのはいつでも出来るから。アメシストは取引材料にもならないんだよね」 キッドにとして見れば、アメシストは、まるでお情けの取引のような形でなければ手に入れられないものではない。怪盗キッドの辞書に不可能の文字はなく、盗めない物はないと豪語する。 風間はキッドの泥棒としての矜持を、始めから見誤っていたのである。 キッドは自分の肩口を掴んで、引いた。白い布が舞ったと見えた次の瞬間、笠原の姿をしていた怪盗キッドは、本来のシルクハットに白いマント、白いスーツ姿に早変わりをしていた。片眼鏡が照明を反射して、きらりと光った。 「そんな理由で、今回はケチがついたし、一旦撤収しようかと思ってね。仕切り直しに、中森警部達が予告日だと思っている二日後の19日に改めて盗みに入っても、オレは全然かまわないからさ。あんな、つまらない取引を仕掛けてくる風間専務に付き合う義理はない」 「キッド、お前、風間専務のフロアへ入るためのパスワードって分かるか？」 「いや、残念ながら教えてもらっていない。伊勢崎専務のフロアから書類を盗み出したら、笠原の携帯に連絡する事になっていたんだ。連絡すれば、笠原が来て風間のフロアに案内してくれる手筈だった」 新一が舌打ちをした。 「役に立たねえな、お前」 「うわ、何ソレ。オレが悪いのかよ」 キッドが口を尖らせたが、新一は無視した。 「？ さっきから何を焦っているんだ、名探偵？ 逃げないのか？」 新一はキッドの言葉に応えず、今までの状況と知っている限りの背景に基づいて、脳内で推理を巡らせた。その様子にキッドがますます眉を顰める。 「何かおかしいと思ったら、名探偵、今回は誰の依頼で動いているんだ？」 核心を突く問いかけに、新一は怪盗の好ましい頭の回転の早さに口元を綻ばせた。 （2008.10.19初出 2013.04.13再掲） |
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