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窓を閉じて下さい | |
| 天に祈りを 14 |
| 火災報知機の作動により、全階のパスワードが無効になり、出入りが自由になった。新一はすぐに風間のオフィスに駆けつけた。そこにあったのは散乱した書類のみで、風間も笠原の姿もなかった。 「多分、行き先は仮眠室だ。こっちだ」 その必要もないのに乗りかかった船だと、一緒についてきたキッドが鋭く叫び、身を翻す。 「何で、そう思う？」 キッドの後について走りながら、新一が訊いた。 「伊勢崎専務のフロアの見取り図を見せてもらった。間取りはほぼ同じって聞いてる。その中で最も隠し棚を作りやすそうだったのが、仮眠室だった」 「さすが、泥棒。着眼点がいいな」 「せめて、怪盗って言ってくれ。大怪盗でもいいけどな」 「抜かせ」 非常ベルはまだ鳴っている。その大音響の中で、向かっている方向から新一の耳は銃声らしき音を拾った。 「名探偵！」 「ああ、分かっている」 キッドも聞こえたらしい。走りながら、１フロア全てを個人オフィスにするなど贅沢が過ぎると、心の中で悪態をつく。目指す仮眠室の扉は開いていた。 「あ、おい、待て、工藤っ」 キッドの制止の声など、聞いていられなかった。相手が銃を持っているのは分かりきっていたが、新一は仮眠室へ飛び込んだ。 「笠原さん！」 そこには予想通りの光景が広がっていた。 笠原の顔がゆっくりと新一を振り向いた。立ってはいるが、テーブルに寄りかかり身体を支えている。上着を着ているのに、その腹部には赤い血の染みが見える。出血のために顔面蒼白になっている笠原は、それでも新一に向けて、苦い笑みを浮かべて見せた。 「工藤さん、やはり、貴方はここまで来ましたね」 笠原の足下で、風間が床に倒れていた。腕から血を流して、のたうち回っている。 「痛い痛い、血が、血がこんなに！ 死んでしまう！ 助けてくれ」 見たところ腕に怪我をしているようだった。しかし、恐らく、無傷のキッドを除いて、今この場で怪我をしている誰よりも軽傷だろう。 新一は笠原の手に握られている拳銃に目をやった。少し離れた場所に小型拳銃も落ちている。 「笠原さん、あなたが風間専務を撃ったのですか？」 「そうです」 笠原は冷ややかに風間を見下ろした。 小型拳銃で撃たれた笠原は、鳴り響いた非常ベルに驚いた風間に飛びかかった。揉み合っているうちに拳銃を奪い、その際に銃弾が発射され、それが風間の腕を掠めたらしい。 「笠原さん、その銃をこちらへ渡して下さい」 「来ないで下さい！」 新一は歩み寄ろうとしたが、笠原の鋭い声が飛んだ。 「ようやくここまで来たんです」 笠原は銃口を床で蹲り、泣きわめいている風間に向けた。 「これで父の無念が晴らせる」 「そんな事をしてはいけない、笠原さん。第一、風間専務がお父さんを殺した証拠はないじゃないですか！」 笠原は首を横に振った。 「酒に酔った時、風間本人が言っていました。歩道橋の上で、オルゴールを譲れ譲らないという話になって、頑固な父に業を煮やして、面倒になって突き落としたって。目撃者はいたらしいですが、金を掴ませて、忘れさせたって得意げに言ってました。オレがその息子だとも気づかずに！」 笠原は狂気じみた笑い声を立てた。 「工藤さん、その後、風間は何て言ったと思います？」 新一に問いかけているが、笠原は始めから答えなど求めてはいなかった。憎しみのこもった目で、父親を殺した男を見下ろしている。 「こんなオルゴール一つで、とんだ苦労をしたって。こんな物にそんな価値はないのに譲るのを渋ったのは、父が勿体ぶってもっと高い値段をふっかけようとしていたからに違いないって。自分は部下の運が悪いと。父はとんでもない守銭奴だって。･･･それは、お前だろうが！」 「ぎゃ！」 自分の言葉に興奮して、笠原は風間に蹴りを入れた。笠原の腹部の銃創から新たな血が噴き出る。 （2008.10.19初出 2013.05.12再掲） |
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