 |
窓を閉じて下さい | |
| 天に祈りを 8 |
| 新一が捕らえられている部屋は、展示品の保管部屋のようだった。 見える範囲という限定条件ではあるけれど、少なくとも、新一の分かる範囲でそこにある物は全て贋物のようだった。宝石などは専門の鑑定が必要だったが、これだけ贋物が揃っているなら、宝石もまた同じだろう。 周囲にロープをはずす役に立ちそうな物は置いてなかった。少しでも緩まないかと腕を動かしてみる。僅かに動かすだけの緩みがあった。他に手段はなく、新一は緩みが広がるように腕を動かし続けた。 ロープにこすれ、手首の皮膚が破けた。血が滲む痛みは、殴られた痛みを紛らわすのにちょうど良かった。 指先を伝って、床に血が落ちる。血に滑り、更にロープが緩んだ。 時間は稼いだ 逃げろ 彼は新一が自力で逃げ出せると信じて、少しも疑っていない。 怪盗と対等な立場である事を自負する探偵ならば、その矜持として、彼の信頼を裏切るつもりはなかった。 ロープは思ったよりも早く簡単に緩んだ。簡単と言っても、手首は傷ついた。痕でも残れば、何か勘違いされそうである。ロープははずれてはいないが、緩んだおかげで手が自由に動く範囲が広がった。手首を回して、左腕の腕時計を探る。コナンの時から愛用しているそれは、阿笠博士によって改良され、麻酔針だけでなく今では様々な機能や仕掛けを施されていた。阿笠博士の天才的な発想と技術力からすれば、時計に鋭利な金属片を仕込んでおく事など朝飯前だった。 リューズを操作し、金属片を飛び出させる。落とさないように気をつけながら、指先で金属片を時計から取り外し、ロープに当てた。小さな切れ目を作り、少しずつ広げていく。ある程度大きくなった切れ目に、後は腕の力でロープを引きちぎった。更に傷が擦れて、新たな血が滲む事になったが。 自由になった手をさすり痛みをこらえながら、床に落としたロープを拾いあげる。自分の血が付着しているそれの、結び目を確認する。始めから少し緩めに結ばれていたようだった。すみませんと繰り返した、笠原の気弱そうな顔が思い浮かんだ。 「………」 ロープを無造作に上着のポケットに入れ、新一は立ち上がった。 ドアを調べながら、近くに人の気配がない事を確認する。鍵はかかっていなかった。笠原は新一の手当てを終えてから、慌てて風間のもとへ戻っていった。慌てるあまり鍵をかけ忘れたのか、それとも…。 新一は次の行動に移るべく、ドアノブに手をかけた。 （2008.10.19初出 2013.01.27再掲） |
|
窓を閉じて下さい | |