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窓を閉じて下さい | |
| Hide-out 14 |
| 熱を吐き出して、自分の腕の中で気を失った新一を快斗は見下ろした。探偵の身体には、快斗が施した暴行の証が残っている。 汗と涙に汚れた新一の顔に張り付いた髪を、そっと掻きあげてやった。ぐったりと気絶した探偵の顔に生気はなかった。精神的な殺人に等しい行為を受けたのだ。無理もない。 怪盗キッドの正体を、他人に知られる訳にはいかなかった。だが、何度も対決し、時には背中を預けて協力し合った探偵ならば、工藤新一ならば、全ての事情を話せないまでも、ある程度の説明で理解を示し、他言しないでいてくれたかもしれなかった。 こんな醜悪な暴力行為など必要なかった筈だ。なのに、快斗は自分自身を止められなかった。 多分この場所の所為だ。この家は、快斗の聖域に近かった。父が怪盗キッドだったと知るまで、この家の存在などすっかり忘れていた。自宅の隠し部屋に残された手帳を読み、断片的な幼い頃の記憶が蘇った。そして、父と交わした約束も。 父との約束はいまだ果たしていない。 寺井ですら知らないこの場所で、快斗は自分を偽った事はなかった。だから、侵入してきた探偵に対しても、自分を装う事が出来なかった。探偵の前で新庄の姿をしていたのも、自分を守るための盾だった。 だが、この場所で、踏み込んできた探偵に対して、完全なポーカーフェイスを貫き通すには快斗は未熟だった。本当は、最初に探偵を気絶させた時点で、彼をこの場所から連れ出すべきだったのだ。だけど、抱えていた迷いを吹っ切れずに、苦し紛れに探偵をこの家に閉じ込めた。数日で迷いを断ち切るつもりだったが、その前に探偵は、怪盗キッドの父子二代に渡る正体に勘付いてしまった。 大失態だ。 探偵に危害を加えるつもりはなかった。だが、口止めをする必要はあった。 快斗は溜息と共に頭を振った。 「いや、違うな」 探偵の腕の拘束をはずし、苦しげに顔を歪め、快斗は力を失った新一の身体をそっと抱き締めた。 （2007.03.18初出 2009.12.06再掲） |
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