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窓を閉じて下さい | |
| Hide-out 6 |
| 目覚めた時、新一はベッドに横になっている自分に気がついた。途中で一度目覚めた時は、自分がどこにいるのかすら把握できなかった。 テーブルに置かれたスタンドが点けられていた。他に明かりはない。さほど広くないその部屋は、寝るためだけの部屋のようだ。ベッド以外にあるのは、小さな丸テーブルのみ。キッドが座っていたのは、そのテーブルだろう。新一のディパックはなかった。新一は手を動かして、身体からガスが抜けたのを確認した。起き上がりベッドから降りようとして、新一は首の周りの違和感に気づいた。 「何だ、これ？」 首に何かが巻かれている。冷たい金属がぐるりと首を一周している。これはまるで犬や猫がしている首輪のようだ。意識が途切れる前に、キッドが首の周りに触れていたのを思い出す。 怪盗は探偵に首輪を付けたのだ。 「っの野郎！」 怒りのあまり血液が沸騰して、眩暈を起こしそうだった。新一は頭に上った血のままに、首輪を探る。継ぎ目と思しき場所を指で探り当て、外そうと両手に力を込めた。 「あ、ダメだ、名探偵！」 飛んできた制止の声に反応するよりも、身体に電流が流れる方が先だった。 「！」 予想もしなかった衝撃に、新一の身体は再びベッドに倒れこんだ。 「おい、大丈夫か、名探偵？」 駆け寄ってきたキッドが新一の顔を覗き込む。その姿はやはり俳優の新庄のままである。 「･･････〝大丈夫か〟だと？ どの口が言いやがるか。コレを付けたのは、お前だろうが」 身体中を駆け抜けた電流の痛みに顔を歪めながら、新一は新庄の顔をしたキッドを睨みつけた。 「悪い。こんなに早く目覚めるとは思ってなくてさ」 「言い訳になってねえ」 差し伸べられた手を叩き、新一は意地と気力で何とか自力でベッドに起き上がった。ベッドに座り直し、剣呑な瞳で睨みつけたまま、首輪に指を引っかけ、キッドに示した。 「コレ、何だよ」 「首輪。大型犬用の盗難＆逃走防止装置付き。専用の鍵を使わずに無理にはずそうとしたり、決められた領域外に出ると電流が流れる仕組みになっているんだ。それをオレが人間用にちょっとだけ改良した物」 しれっと説明する顔を殴りつけてやりたかった。 「はずせよ」 「ダメだ」 「何でだ？」 「はずしたら、名探偵、逃げるだろ？」 「当たり前だろうが」 「だから、はずせない」 「ふざけんな！」 キッドの胸倉を掴んで、新一が怒鳴りつけた。激昂している新一とは対照的に、新庄の顔をしたキッドは醒めた瞳で見つめ返した。 「ふざけていない」 胸倉を掴む新一の手首を、キッドの両手が掴んだ。物凄い握力で掴みあげられ、痛みに新一はキッドの服を離した。 「キッド!?」 そのまま押し倒され、ベッドに両手首を押し付けられる形になる。 「お前が悪いんだ、名探偵。こんな所まで追いかけてくるから」 見下ろしてくる新庄の顔をしたキッドの表情は、前髪に隠れてよく見えなかった。けれど、手首に食い込んでくる指の力の強さに、新一は認めたくはなかったが恐怖を感じた。 「キッド･･･？･･･」 多分、怯えが瞳に出てしまっているだろう。窺うような新一の声に、キッドの力が緩んだ。 「腹、減っただろ。飯が出来たんで、呼びに来たんだ」 不意に憑物が落ちたように、吹きつけてくるキッドの感情が凪いだ。覆い被さっていた新一の上からどいて、ベッドから降りていく。確かに、よく見れば、新庄の顔をしたキッドはエプロン姿だった。新一を置いて、さっさと部屋を出て行こうとする。ドアの所で振り向いた。 「ほら、飯が冷めちまう。来いよ、名探偵」 一冊の本から辿り着いた屋敷と首輪をつけられた今の状況、キッドの様子、全てが不可解で新一には推理不可能だった。 しかし、不意にまたいいタイミングで腹が鳴った。考えてみると、朝から食べたのは駅で買った弁当一つだけで、新一の胃袋は速やかな栄養補給を訴えている。おとなしく従うのも癪に障るが、他によい方策もなく、新一は仕方なくベッドから降りて、エプロン姿の怪盗の後に続いた。 （2007.03.18初出 2009.11.19再掲） |
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