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窓を閉じて下さい | |
| Hide-out 9 |
| 疲れているはずなのに、新一は寝付けなかった。枕が違ったり、慣れないベッドじゃ眠れないというような繊細な神経の持ち主ではないので、眠れない理由はそこではない。 何にしろ疲れていた。朝家を出て電車に乗り、昼間山道を歩き、その後怪盗と遭遇して、監禁されて、と目まぐるしい一日だった。吸い込んだ怪盗のガスが残っているのか、どことなく身体もだるい。シャワーを浴びて汗は流したが、疲労は流れなかった。 疲労感に思索を放棄して、新一は眠ろうと眼を瞑る。しかし、睡魔は訪れず、閉ざした瞼の裏側を様々な謎と、怪盗の昏い瞳が浮かんでは消えていく。 「あー、うざってえ！」 眠れない苛立ちとまとまらない思考に、新一は起き上がって頭を掻いた。首の周りの不快な重さに視線を落とす。 多分、本気で逃げようと思えば、逃げられる筈だ。 領域に首輪が反応して電流が流れたとしても、高が知れている。どれだけ電流を維持できるかというと、首輪のサイズからして長時間は無理だろう。だから、電流が切れるまで耐えられれば、ここから脱出できる。あの、人を傷つけない事で有名な怪盗キッドが、本当に人体に危険なものを人間には付けないだろうという前提が必要になってくるが。 この洋館で出会ったキッドは、明らかに様子がおかしかった。普段の余裕がないのである。悠然と構えているように装ってはいるが、根底に流れている緊張感を隠しきれていない。 何かを待っているというより、何かに迷っている。そんな所に予定外の新一が現れて、非常に分かりにくいが、恐らく怪盗キッドは動揺しているのだ。だから、いつものスマートさが欠けている。 「何なんだよ、畜生」 思い出されるのは、 『こんな所まで来た探偵が悪い』 という科白と、非難めいた視線だ。その言葉を口にする時、彼は気障を売り物にする怪盗紳士ではなく、何だか拗ねた子供のように見えた。 「〝こんな所〟か」 その言葉が指すのは距離ではなく、この屋敷そのものの空間だろう。 怪盗キッドの犯行理由の手がかりを求めて、一冊の本に辿り着いた。その本を探して行き着いた場所にいたのは、怪盗キッド本人だった。それでは、十五年前にその本を買い求めたジンさんと呼ばれていた『糸内刃六』という人物は怪盗キッドその人だったのだろうか。だが、彼の知るキッドは年齢が違いすぎる気がする。不確定な情報が多すぎて、まともな推理も出来ない。 新一は大きく息を吐いて、ベッドから降りた。 眠気は当分やってきそうもなかった。どうせ屋敷の窓は締め切られていて、夜も昼も関係ない。ならば、時間を有効に使おうと、新一は屋敷の中を調べてみることにした。 （2007.03.18初出 2009.11.22再掲） |
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