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窓を閉じて下さい | |
| 月に想いを 5 |
| 翌日、定刻通りに、結婚式は始まった。 礼拝堂の扉が開かれ、オルガン奏者が奏でる調べに合わせて、花嫁が父親に付き添われて入場する。列席者はバージンロードを歩く花嫁を、全員起立で出迎えた。 結婚式は午後の４時から始まった。差し込む西日は青のステンドグラスを通り、礼拝堂に荘厳なる光を注いでいた。 バスケット選手でもあった身長のある花嫁は、まるでモデルのようでドレスがよく似合っていた。ティアラで留めたベールから花嫁の赤い唇が覗いている。流行のデザインではないが、スポーツ選手の体格を強調しない肩や首、肌をあまり見せないフリルとレースをふんだんに使ったプリンセスラインの気品あるドレスの胸元には、サファイアの首飾りが輝いていた。楚々と進む花嫁の姿に、列席者は感嘆の溜息を漏らした。 礼拝堂の中に、制服を着た警察官の姿はない。物々しい出で立ちの機動隊は、教会の周囲を警戒している。森の中の教会なので、想定されるキッドの侵入経路は限定された。花嫁の父親の意向もあり、礼拝堂内部の警備は数名で、全員が私服姿だった。勿論、中森警部も列席者の中に紛れ、怪盗の侵入を警戒していた。 中森警部としては、本当は列席者全員の顔を引っ張り、礼拝堂内にいるのがまずキッドでない保証が欲しいところであった。しかし、やはりそれは、出来るだけ穏便に済ませたい、列席者に失礼がないようにしたいという、花嫁の父親の意向で叶わなかった。 十字架の下で待つ花婿の元に、父親にエスコートされた花嫁が辿り着いた。二人が揃うのを待って、白い髭をたくわえた老牧師が厳かに結婚式の開始を宣言する。 爆発音が起こったのは、その時だった。 音と振動に、列席者から悲鳴が上がる。 「近くの草むらで爆発がありました！」 礼拝堂の扉が開いて、入ってきた機動隊員が中森警部に報告する。 「現場にＡ班が既に向かっております。現在のところ近くに不審人物は確認できておりません」 「キッドはいたか？」 「怪盗キッドらしき姿も確認できておりません」 「分かった。引き続き警戒を続けろ」 話している間にも、遠くで散発的に爆発が起きているようだった。音と振動が礼拝堂にまで伝わってくる。 中森が振り返ると、結婚式の列席者達が一様に不安な面持ちで中森を見ている。 十字架の前では、老牧師に付き添われ、花婿と花嫁が寄り添って立っていた。ベールに隠されて表情までは分からないが、流石のお気楽なお嬢様も爆発音に不安は隠せないようだった。 「皆さん、大丈夫です。落ち着いて下さい。怪盗キッドはまだこの中には入ってきていません」 中森が声を張り上げても、列席者達の不安は拭えなかった。ざわめきは収まらない。 中森は花婿の玉置に近づいた。花婿の顔は緊張で強ばっていた。中森が声を潜める。 「玉置さん、大変申し訳ないのですが、結婚式を中止していただけませんか？ 怪盗キッドは人を傷つける事はありませんが、どうも今回ヤツの仕業にしてはこれだけ爆発を起こしているなど、少々荒っぽく感じます」 また遠くで爆発が起こっている。 「ここだけの話、キッドのような有名な泥棒にはヤツを真似る輩も出てきます。その中にはかなり過激な事をする連中もおりまして」 「今回は、本物のキッドではなく、模倣犯だという事ですか？」 「この荒っぽい手口からすると、その可能性が高いです。その場合、奴らはキッドと違い、人を傷つける事など何とも思っていません。手段を選ばず、目的を達しようとするでしょう。今日の所は結婚式を中止して、皆さんを避難させた方がよいと思います」 玉置が視線を横に向けると、花嫁は俯いたまま小さく頷いた。怯えているのか、一言も発しない。その様子に、花婿も決心する。 「分かりました。仕方ありません。中森警部、皆さんの避難の誘導をお願いできますか？」 しかし、その決断は少し遅かった。 教会の間近で爆発が起こると同時に、勢いよく礼拝堂の扉が開かれ、機関銃で武装した迷彩服姿の男が５〜６人乱入してきた。 （2010.02.13初出 2013.11.23再掲） |
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