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窓を閉じて下さい | |
| 月に想いを 8 |
| 教会の裏口から逃げ出した花嫁は老牧師に続いて小道を抜けて、森の中に入っていった。その後を追って、男達が続いていく。 花嫁はドレスの裾を持ち、器用に森の中を駆けていく。 確か、花嫁はバスケットボールの選手だったと聞いている。走るのも得意なのだろう。 だが、それでも嵩張るドレスと動きやすい迷彩服とでは機動性に雲泥の差がある。花嫁との距離は少しずつ縮まっていった。 「止まれ！ 止まらないと撃つぞ！」 「止まっても撃つんだろ？」 「な、に!?」 声と共に、老牧師が木の上から降ってきた。花嫁と一緒に逃げていた筈なのに、いつの間に木の上に登ったのか。男が照準を花嫁から牧師に移す前に、顔面にスプレーを噴射された。 不意打ちに、男は噴射されたガスを思い切り吸い込んでしまった。白い髭の老牧師がその外見にそぐわない勝ち誇った笑みを浮かべている姿を最後に、男の意識は途切れた。 「まずは一人、ってね。っと、ヤベ。見失っちまう。ホントに足が速いなー」 老牧師が手を翳して探すと、白いドレスの背中は森の木々の向こうに見えた。女性の足である事と動きにくい服装である事を考えると、賞賛に値するスピードである。それよりも、その背中には、以前に何度か見覚えがあった。 「･･･まさか、ね」 呟きながら、牧師は思いついた可能性を完全否定できなかった。怪盗の知る探偵は自ら囮になるなど、平気でやりそうだった。 「ま、百聞は一見にしかず」 老牧師が自分の服の肩口を掴み、強く引っ張る。黒い牧師服が宙を舞い、次の瞬間、そこに立っているのは老牧師ではなく、白いスーツにシルクハット、トレードマークの片眼鏡を着けた怪盗だった。 立ち並ぶ木を足がかりに跳躍し、怪盗の白いマントが暗くなり始めた夜空に翻った。 （2010.02.13初出 2014.01.15再掲） |
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