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窓を閉じて下さい | |
| nocturne 6 |
| 「ごめんごめん」 探偵の腕を離して、キッドは軽快に指を鳴らした。一瞬にして、メイドの姿はかき消え、代わりに運転席から身を乗り出すようにしているのは、癖毛の青年の姿になる。 「これならいいだろ？」 黒羽快斗の姿に戻り、また顔を近づける。積極的な合意はなくても、強固な拒絶もなく、黒羽は再び、探偵の唇に自分のそれを重ねた。 「･･････ん･･･」 鼻に抜ける声が甘い。工藤が無意識に出すその声に、どうしようもなく黒羽が煽られる事に工藤は気づいていない。 本当、タチが悪いよなぁ キスに翻弄されている探偵を、黒羽が薄目を開けて窺った。 「工藤･･･」 口の端から零れた唾液を指先で拭う。吐息が熱を増している。その熱さに誘われるように、黒羽は三度唇を重ねた。キスをしながら腕を伸ばし、シートレバーを探り当てる。 「!?」 助手席のシートががくんと倒され、キスに酔っていた工藤は驚いて目を見張った。 「く、黒羽!?」 「ごめん、限界」 意味に気づいて、分かりやすく工藤の顔から血の気が引いた。 工藤はキッドの正体を知っていた。同じ大学に在籍しているマジック好きの学生と偶然知り合い、友人になった。学生の名前は黒羽快斗。工藤は偶然と思っていたが、今思えば、それは黒羽の演出だったのかもしれない。工藤はキッドの正体を知らなかったが、黒羽は工藤が何者であるかなど分かりすぎるほど分かっていただろう。器用な彼の事だから、工藤を避けようと思えばいくらでも避けられたに違いない。 友人となった黒羽と付き合っているうちに、ある日彼の正体が怪盗キッドだと気づいた。気づいて欲しかったのか。友人として知り合い、結局、キッドだと気づいても捕まえる気は起きなかった。現場では別だが、現場以外ではいい友人関係を築いていった。 探偵と怪盗ではあるけれど、そこは知恵者同士ウマが合った。そして、気づけば、黒羽の情熱に流されて、友人から恋人に変わっていた。そうなっても、勿論現場で遭遇すれば、容赦する工藤ではなかったが。 だから、黒羽とは何度も同じ夜を数えている。しかし、だからといって、こんな場所で事に及ぶというのは、工藤の選択肢にはなかった。 「ちょ、黒羽、ダメだ！ やめろっ」 既に器用な黒羽の指は、工藤のシャツのボタンをほとんど外していた。首筋に吸い付いてくる癖毛の頭を引きはがそうと躍起になるが、うまく力が入らない。 「こら、オレは今仕事中なんだ。こんな事をしてる場合じゃない。すぐに、用を済ませて屋敷に戻らないと」 「だから、今日はまだ誰も外部からの客はあの屋敷には来ていないんだから、大丈夫だろ。今、屋敷の中にいる人達は信用していいって」 「お前、何を知っ･･･あっ」 胸の突起を強く吸われて、甘い声が漏れた。 「や･･･ダメ･･･だ･･････く･･･」 「そんな声を出されたら、オレの方がダメだよ、工藤。それに」 「！」 手を忍ばせば、既に熱を持った工藤に触れる事ができた。 「･･･くろ･･･」 自分の身体の反応にどうしていいか分からずに、乱された服の前を掻き合わせ、潤んだ瞳で力なく首を振る工藤の姿は車内という特殊シチュエーションで増幅され、黒羽の熱が力を増す。 「工藤･･･」 強ばった身体をほぐすように、黒羽は啄むキスを繰り返す。 「ごめん、工藤が欲しい。今、どうしても工藤だけが欲しいんだ」 黒羽から与えられる熱と甘い言葉に、明晰な筈の工藤の脳は回転数が落ちていく。 強く首筋を吸われて、その場所から甘い痺れが広がっていく。 「ね、いいだろ、新一？」 再び口づけ、僅かに離れた時、工藤の唇が小さく震えた。 「･･････かい･･･と･･･」 下の名前を呼び合うのは、行為の時だけだった。消極的合意を取り付け、黒羽は嬉しそうに破顔した。 （2010.5.3初出 2022.12.30再掲） |
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