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窓を閉じて下さい | |
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| 『オレの手はあの四人と一緒…。もう血みどろなんだよ…』 あの人はそう言って、淋しげに微笑んだ。 喪服をまとった哀しい人は、そうして罪を灼き尽くす紅蓮の業火に消えた。 「おーい、新一君、起きんか。もうすぐ時間じゃぞ」 揺すぶられる感覚と本当の名前を呼ばれて、コナンは夢から引き戻された。心配そうに阿笠博士が覗き込んでいる。 「大丈夫か、新一君。最近、事件続きじゃったし、疲れてるんじゃないのか？」 「そんな事ないよ、博士」 強がるものの、実際は蓄積された疲労に出掛ける時間まで眠ろうと、阿笠博士の家のソファで横になっていたのだ。博士の観察は、あながち間違っているとは言えない。 「本当に大丈夫だってば、博士」 「そうは言ってもな、君はうなされていたぞ。ほれ、そんなに汗もかいて」 指摘されて、慌てて汗を拭う。 「別に今回は毛利君に予告状が届いたわけでも、依頼が来たわけでもないんじゃろう。わざわざ君が出ていく事もないんじゃないか。無理は禁物じゃぞ」 「本当に何でもないって。…ちょっと、夢を見ていただけだよ」 心配させない為に無理矢理見せたコナンの笑顔をどう取ったのか、人の好い博士は、白い眉をひそめて言った。 「恐い夢じゃったのか？」 「まさか、ガキじゃねーんだから。それに、恐い夢なんかじゃなかったよ。ただ…」 夢に居たのは、かつて、コナンが関わった事件で出会った、助けられなかった哀しい人。 憎しみに身を焦がされながら、それでも、自分の殺人を誰かに止めてもらいたかった優しい人。 そして、コナンが死なせてしまった唯ひとりの犯人。推理で追いつめた犯人を、みすみす自殺させる探偵は犯人と同じ殺人者である。コナンは探偵という人種の罪深さを知っている。 言葉を止めてしまったコナンを心配そうに、阿笠博士が覗き込む。 「“ただ”、何なんじゃ、新一君？」 無邪気な子供ではない顔で、コナンは小さく笑った。優しい人の最期の言葉を思い出しながら。 アリガトナ チイサナ タンテイサン 「月と海が、とても綺麗だったよ」 悔恨に繰り返す残酷な夢の中で、コナンは何度も手を差し伸べる。けれど、子供になってしまった自分の手は小さすぎて、燃え盛る炎の壁に阻まれて、決してあの人には届かない。夢を見る度に、コナンは繰り返し喪服をまとった哀しい人を殺すのだ。 太平洋に浮かぶ小さな島。故郷の島の自然と海を、こよなく愛していた誰か。初めて出会った時、彼の人は子供に向けて優しく微笑んでいた。 あの人はきっと、今でもあの場所に在るのだろう。 海に囲まれた小さな島で、そうして、あの人は殺された自分の家族と、自分が殺した人達の為に、終わらない鎮魂曲をいつまでも弾いているに違いない。 瞳を閉じると、遠く潮騒が聞こえたような気がした。 （2006.05.15ＵＰ） |
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