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窓を閉じて下さい | |
| 星に願いを 8 |
| 「怪盗キッド！」 「そう、私が怪盗キッドです」 「くそっ」 近江が弾かれたナイフに視線を走らせた。床に転がったナイフを見つけ、急いで飛びついて拾おうと手を伸ばした。しかし、手が凶器に届く直前、黒い革靴がナイフを踏みつけた。 「往生際が悪いな」 嫌味なほど静かな声が落ちてきた。近江は手の先の革靴から、落ち着いた深い色のスーツの足を辿り、視線を上に向けた。 そこには、今まで自分の隣にいたのと寸分変わらない顔があった。振り向くと、白い怪盗が肩を竦めている。もう一度、前を向いて、突然現われた本物の探偵を睨みながら、近江は唸るように声を絞り出した。 「ふざけやがって」 ナイフを諦め、近江が体格差を活かして、工藤に掴みかかる。しかし、近江の太い腕が探偵の身体に届く前に、工藤の身体は沈んだ。しなやかで強靭な足が、容赦なく近江の無駄に太い足を横に払った。 「うおっ！」 醜い声を上げて、近江の身体が床にもんどり打って倒れた。そこへ、何処から取り出したのか、近江の大柄な身体を全て覆えるほどの白い布がばさりと掛けられ、キッドがカウントダウンをする。 「３、２、１、０！」 キッドが白い布を取り去ると、縄でぐるぐる巻きに縛られた近江が床に転がっていた。 近江が怒りと屈辱に顔を歪めて、怒鳴った。 「ちくしょう！ 探偵と泥棒がグルだなんて、聞いてねえぞ！」 工藤が聞きとがめて、冷静に訂正する。 「人聞きの悪い事は言わないで下さい。誰も泥棒とグルになんてなっていませんよ。僕がただこの気障な泥棒を利用したに過ぎない」 全く悪びれない探偵に、怪盗はうんざりした顔をした。 「そっちの方が、よっぽど人聞きが悪い気がするんだが」 その時、部屋の扉が強く叩かれた。 「おい、物音が聞こえたが、何かあったのか!?」 「げ」 中森が騒ぎを聞きつけて、駆けつけたらしい。警察官としては当然の行動だ。 工藤は近江に麻酔針を打ち込み眠らせると、キッドに顔を向けた。 「キッド、色々と思うところはあるだろうが、今回はこいつはこのまま警察に引き渡す。いいな」 「ああ。この状況じゃ仕方ないな。まあ、こいつは戸籍や住所がはっきりしているぐらいだから、かなり末端の人間と考えていいだろう。そんなに組織の深い事を知っていると思えないから、かまわねえよ」 「よし。じゃあ、警部を部屋に入れる。とりあえず、お前はそこに隠れていろ」 工藤は自分が隠れていた、飾り棚の後ろの隠し扉を指差した。先刻は、絶妙のタイミングで工藤はそこから飛び出して、近江が凶器を拾うのを阻止したのだ。 「いいのか？」 「いいも悪いも、こっちにも色々都合があるんだよ。その代わり、そこで待ってろ。いいか、絶対に逃げるんじゃねえぞ」 「早く、こちらへ」 浜子がキッドを促した。その間にも、扉は激しく叩かれている。 キッドは探偵を見つめた。工藤は真直ぐに怪盗の視線を受け止めた。 「信じるぜ」 「信じろ」 キッドがマントを翻し、隠し扉の奥へ姿を消した。 （2007.12.30初出 2012.06.25再掲） |
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