 |
窓を閉じて下さい | |
| 星に願いを 9 |
| 浜子がカーテンに隠れている壁のスイッチを操作して、飾り棚を元の位置に戻した。部屋が完全に元に戻ると、浜子と工藤は無言で頷きあい、向こう側から中森が叩いている扉を工藤が開けた。 「おい、何ですぐにドアを開けないんだ!? 一体、何があったんだ？ ルビーは無事か？ ん？」 中森は、身動きできないほど縛られて床で昏倒している近江を見つけた。 工藤は薄く笑った。 「彼が今回の犯人です」 「何ぃ？」 「どうやら、怪盗キッドの予告状は偽物だったようですね。彼が、キッドの犯行に見せかけて、神野さんのルビーを奪おうと画策したのが、真実のようです」 「あの予告状が偽物だって？ だとすると、今夜は怪盗キッドは現れないって事か？」 「多分、そうなりますね」 「そうか、偽物だったのか。しかし、なら、奴の事なら尚更出て来そうなものなんだがな。濡れ衣を着せられるのを、甘んじて受けるような可愛げのある奴じゃないからな、キッドは」 「それは、多分、中森警部の事を信じていたんじゃないんですか？ 貴方なら、真犯人を捕まえてくれるとね」 「そう、かな」 照れたように嬉しそうに中森は、頬を掻いた。勿論、『すみません、警部』と頭の中で謝っている探偵には気づかない。 「神野さん、ルビーは盗まれていませんね？」 中森の念押しに、浜子が頷いて、工藤を見る。 「はい、警部、この通りルビーは無事です」 工藤がスーツの内側の胸ポケットから、厳重に包まれたブローチを取り出し、布を開いて中森に示した。 「お前が持っていたのか」 「ええ。この屋敷の中で、最も安全な場所はそこ以外にありませんもの」 ふんと鼻を鳴らしたものの、浜子の笑顔と、被害がなかった事は警察として評価するべきだろうと判断し、中森はそれ以上何も言わなかった。 「よしっ、被疑者確保。警視庁に連行する。撤収だ」 中森の号令の下、警備についていた警察官が一斉に動き出す。訓練された動きは、彼らの熟練度であり、中森自慢の精鋭部隊である事が分かる。 「では、神野さん、後日事情聴取を行いますので、その時はまたよろしくお願いします」 「はい。こちらこそ、よろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました。おかげで、ルビーも盗まれずに済みました」 「では、これで失礼します」 警察官が数人がかりで、意識のない大柄な体格の近江を運び出していた。中森は浜子と工藤に挨拶をして、神野邸を後にした。 中森が神野邸の門扉を出ると、一斉にフラッシュがたかれている。各報道陣のマイクが次から次へと向けられ、それを避けながら、中森は叫んでいるに違いない。 「ノーコメントだ。後で、警視庁から正式発表があるから、それを待て」 工藤は窓からその様子を眺めて、苦笑する。浜子が遠慮がちに声をかけてきた。 「終わりましたね」 「いえ、まだです。これからが本番ですよ。違いますか？」 「はい、そうでしたわね」 工藤の言葉に浜子は隠し扉に視線を送り、頷いた。 （2007.12.30初出 2012.07.01再掲） |
|
窓を閉じて下さい | |