保健医1

保健医シリーズ
1

「ああ、これはひどいな」
　シュバルツはそう言うと、アーバインの手を取った。
「え、おい、待てよ」
　慌てるアーバインを無視して、シュバルツはガラスに傷つけられ血を流す誰かの指先を口に含んだ。
「……っ…」
　舌が柔らかく指先に絡まり、血を吸い上げる。アーバインの動揺を無視して、校医はじっくりと味わうように指先を含んだ。
「破片は残ってないようだな」
「あ、ああ」
「全く、理科教師のくせに試験管で怪我するとはな」
「ほっとけ。ガキどもに始末させるわけにはいかねえだろうが」

　放課後、理科室の掃除に来た生徒の一人が不注意で試験管を落としてしまった。粉々になったガラスを危ないので生徒の代わりにアーバインが片付けたのだが、うっかり指先を傷つけてしまったのだ。思ったより傷は深く圧迫止血程度では血が止まらなかったので、アーバインは仕方なく渋々ながら校医のシュバルツがいる保健室にやってきたのだ。

　シュバルツは慣れた手つきで傷口の消毒を済ませ、ガーゼを巻いた。
「これでよし、と」
「助かったぜ、サンキュ」
　手を引こうとしたが、出来なかった。シュバルツはアーバインの手を掴んだまま、離さない。
「おい、何だよ。離せって」
「顔色が悪いぞ。ちゃんと寝ているのか？」
　手を取られたまま、もう片方のシュバルツの手が強引にアーバインの顎を掴み、仰向かせる。
　アーバインが気まずげに視線を逸らした。
「試験の採点と授業の準備をしてて、ちっと寝るのが遅くなっただけだよ。平気だって」
「お前の平気は当てにならんからな」
　シュバルツはアーバインから手を離して溜息をついた。
「ベッドは空いているから、少し寝ていけ。生徒はいないから、心配するな」
「いいよ、別に。本当に平気だって」
「掃除の生徒達はもう帰ったのだろう？　私もこれからルイーズ校長と会議があるで、一時間ばかりここを空ける。遠慮をするな。三十分でも寝れば随分違うぞ」
　使われた形跡のないベッドと睡魔がアーバインを甘く誘惑する。
「じゃあ、悪いが少しだけ寝かせてもらうわ」
「そうしろ。目が覚めたらそのままで帰っていいぞ」

　白衣を翻して、校医のシュバルツは保健室を出ていった。
　一人になったアーバインは大きなあくびをして、ネクタイを緩めてから清潔な白いシーツに覆われたベッドに潜り込んだ。

　ルイーズ校長とホマレフ教頭との会議を終えて、シュバルツが保健室に戻ってくると、アーバインはまだ眠っていた。会議は長引いたので、もう二時間近く寝ている事になる。よほど疲れているのだろう。シュバルツが覗き込んでも、アーバインが起きる気配はなかった。規則正しい寝息だけが部屋に響く。
　既に下校時間はとっくに過ぎて、校内にいるのは残業の教師が数名の筈だった。窓から入る傾いた陽の光が室内を黄昏色に染め上げる。
　眠る理科教師の寝顔は無防備であどけなかった。起きている時は憎まれ口しかたたかない唇は薄く開いて、寝息を立てている。

　シュバルツは少しだけ考え込む仕種を見せた。だが、それも時間にすれば一分もかからず、組んだ腕を解いて呟いた。
「やはり、据え膳はいただかなくてはなるまいな」

　白衣の悪魔は残照を頬に受けながら、鮮やかな笑みを浮かべてみせた。
(2003.03.25UP)

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元ネタは、成田ディジー大明神。確か、励ましＦＡＸでこれを送ったような（迷惑な）。小説とも呼べない代物（自分のファイルにはそんなんばっかりだ）。
設定を考えていたら、結構楽しかったですな。用務員兼警備員のロッソとか、ひそかにアーバインを狙う生徒バンとか（苦笑）。ちなみに、試験管を割った生徒はフィーネだったりする。
日本語には自主規制という美しい4文字熟語がありますので、続きはないつもりでしたが、局地的に続き希望のお声をいただいたので書いてみました（苦笑）。
このシリーズは基本はお遊びのコスプレ物ですので、深い意味もちゃんとしたストーリー展開もございません。エロ保健医な兄を書くためだけに存在しますので、それでもよい方は「２」へお進み下さいなｖ

窓を閉じて下さい

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