贖いの行方　1
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　月のない夜。広がる森は暗く深い。その一角に、ほのかに明るい場所があった。
　少しだけ木々が疎らな開けた場所に、小さな焚火があった。
　倒木に寄り掛かる影が、時折、傍に集めてある枯れ枝を二、三掴んでは、焚火の中へ放り込む。枝が爆ぜる音と共に、熱と光が僅かに増した。

　揺らめく炎が映し出す影は、人間ではなかった。その体を形成する金属性のフォルムから、すぐにその者がＭＳ族であると知れた。更に言えば、その特徴的な外見から、ＭＳ族の中でも最強を誇るガンダム族である事は一目瞭然だった。

　本来、金属性の体を持つＭＳ族は、多少の温度差なら何ら影響を受けない。それ故にそのＭＳ族、ガンダム族の騎士、漆黒の機体のデスサイズが、火を焚いている光景には、少なからず違和感があった。
　囲む森は夜の沈黙に支配されている。ただ、存在を主張するように、デスサイズの目の前で炎が揺らめき躍っていた。

　唐突に、彼の傍らに置いてあった毛布の塊がもぞりと動いた。
　デスサイズが顔を向けると、もぞもぞと動く毛布の中から小さな頭が出てきた。栗色の髪の先は、尻尾のように一つにまとめられている。顔を出したのは、３、４歳ぐらいの幼い子供だった。少年とも少女ともつかない、瞳の大きなあどけない顔立ちをしている。身体を起こした子供は、大きな欠伸を一つして、小さく丸い指で、眠気に開ききる事のできない目蓋をこすった。

「どうした、デュオ？」

　デュオと呼ばれた人間の子供は、とろんとした眼をデスサイズに向けた。霞みがかった覚醒しきっていない瞳は、明るい青色をしている。

「寒いのか？」

　他を圧倒する、その威圧的な外見とは違って、デュオに向けられるデスサイズの声は優しい。彼には不必要な焚火も、脆い肉の体を持つ、この人の子の為なのだろう。

「………」

　寝呆けているらしく、デスサイズの言葉はデュオには届いていないようだった。返事はなかった。
　デュオは毛布を被ったまま、立ち上がる事もなく、もそもそと這ってデスサイズの方へと移動を始める。

「デュオ？」

　戸惑うデスサイズが見守る中、幼子は毛布を引きずって、彼の膝に登った。寝やすい位置を確かめると、デュオは彼の膝の上で丸くなる。すぐに小さな唇は、規則正しい寝息を立て始めた。
　デュオの寝顔からは、全幅の信頼が見て取れる。感情を顔の筋肉で表す事のない、ガンダム族の騎士はただ瞳に複雑な色を浮かべる。

　朝には遠い夜の中、揺らめく炎だけが、森で休むこの奇妙な親子を見守っていた。
（2005.01.03UP）

贖いの行方　1　　2　　3　　4

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